2013年05月29日

『カスタム』

 「きみがもどってきてくれてほんとうにうれしい」と
 屈託なく笑ってみせる彼らのしたことが
 間違いだったのか正しかったのか
 決してしてはならないことだったのかしなければならないことだったのか

 結局わからないしもうわからなくてもいいと思っている

 乞われるままひとであることを捨てた自分は世界を描きかえる絵筆をとった
 間抜けなミスで脱落してしまった自分を取り戻してくれた彼らのために
 ───ただ、彼らのために

 世界が認識するすべての色彩を宿した絵筆は『神』にも『英雄』にもない力
 八つの色にカスタムされた『狩人』達は
 自らの腕が千切れ脚がもげようとも少女を守り全力で『木偶』を壊し続ける

 役割は単純にして明快なのだから
 どんなエゴもどんな過ちもすっかり棚上げにしよう
posted by 樋川春樹 at 00:53| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『くまなく』

 その少女は、なりそこないの『木偶』
 絶望に身をゆだねることも出来ず
 なのに希望に向かってあがくことも出来ず
 『一度は喪った』彼女に病的に執着する
 まやかしの生命達に求められるまま
 『枠』の外に踏み出したナニモノでもない少女

 何十年、何百年、もしかしたらそれこそ何千年も前のこと
 たったひとつの致命的なミスにより『狩人』達は彼女を喪った
 『マスター』をあらゆる危難から守り従順に仕えることこそが唯一の存在意義であったのに
 彼らは絶対になくしてはならないものを奪われてしまい

 ───ありえないほどの狂気に囚われた彼らは
 『枠』を捻じ曲げ
 いびつな時間の中から
 彼女を
 大切な彼女を取り戻した

 少女の記憶は著しく混乱している
 表情にも言葉にも出さないようにしているけれど
 少女の頭の中には完全に異なった複数の記憶がある

 誰からも愛されず一人無力に朽ち果てて虚ろに呑まれ『木偶』と成り果てた自分
 あるいは一瞬の油断から屠るべき『木偶』に喉を喰い破られ無残に絶命した自分

 もう死んだ、のに、今も生きている、死なずに続いている人生の記憶もある

 そのどれが本当の自分の本来の記憶なのか
 少女にはもうわからない

 等価値に存在する複数の記憶は絶対的に矛盾を孕むはずなのに
 何度何度何度反復して考察してみても、くまなく整合性がとれているのだ
 今こうして生きている自分の中にもう死んでしまった自分の記憶がある
 死んでしまった自分がそれよりも後の時間を生きている自分のことを考えている
posted by 樋川春樹 at 00:53| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『造語』

 遥か昔、最初の『神』は誰だったのか
 彼もしくは彼女に、初めて呼びかけたのは誰だったのか
 『神』を『神』と名づけたのは誰だったのか

 そのものをそのものと定義し
 新しくつくりだされた言葉でそのものを呼ぶとき
 そのものは世界から切り分けられそのものとして姿をあらわす

 ひとは新しい言葉をうみだすことで
 概念を無限に分断し
 あらゆるものを『枠』の中に見い出せる

 『神』に『神』という名称を与えたのは誰だったのか
 『英雄』を
 『竜』を
 最初に呼んだのは誰だったのか
posted by 樋川春樹 at 00:52| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月22日

【指令】第29週:樋川→華涼

++++


ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『買い取り』
『原作』
『ハンター』


・期限は2013年5月29日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年5月27日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 樋川春樹 at 21:59| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『オアシス』

 ボクは放って置いても大丈夫だから、と言葉を続けかけて、そのとき唐突にその子どもがボクのそばから離れようとしない理由に思い当たる。気づいてみれば単純なことだ、ボクのそばを離れたところで彼女にはもうどこにも行くあてがないのだ。彼女と会ったときそばに転がっていた血まみれの死体は、きっと家族だったのだ。父親だったのか母親だったのか、人体としての形状を留めていなかったからそれがどっちだったのかはわからないけれど。悲惨なまでに真っ赤な物体、ただのモノに成り下がったその隣りに、それでもその子はそこから立ち去ろうとせずにうずくまって寄り添っていた。
 無防備で無力な彼女がボクに見つけられるまで生き残っていたのは、ただ単に本当に運が良かったからに過ぎない。実際、ボクと目が合った次の瞬間には彼女を別の方向から発見した兵士が襲いかかってきて、兵士は何故か(多分もうおかしくなっていたのだろう)実際の脅威であるボクではなく小さくて弱々しい彼女に武器を向けて、ボクが彼女を助けたのだって完全に気まぐれに過ぎなかったワケだから。
 ボクが立ち上がろうとすると、彼女は縋るような目でボクを見上げて、それでもボクの服の裾を掴んだり行かないでほしいと口に出して言ったりはしなかった。そんなところも『マスター』にそっくりだと思ったけれど、でもやっぱりその子どもとあのひととは決定的に異なっているのだし、やっぱりボクには彼女を助ける義理はない。
 どこか絶対に安全で安心なオアシスのような場所があったなら、もしかしたらその子をそこへ連れて行ったりしただろうか? 頭の片隅でちらりと想像してみたけれど、結局そんな場所は何処にもありはしないのだ。そんな場所が何処にもないから、オアシスの存在しない砂漠のような世界で、ボク達は『マスター』と共に長い間戦っているのだもの。
 キミは何処にも行く場所がないんだね、キミを守ってくれる人も、キミが身を隠せる場所も、キミにはもう何もないんだね? 静かな声で尋ねると、幼い彼女は幼いアタマで一生懸命にボクの言葉を理解して解釈して、それからこくんとひとつうなずいた。
 だったら、もうここでおしまいにするかい? キミはボクが助けてくれると思ってるのかもしれないけれど、本当のところボクはこの『枠』を───この世界を終わらせに来たんだよ。今ここでボクに殺されるか、一人残された後で誰か別の人間に殺されるか、これからすぐに訪れる『枠』が壊れるときに一緒に存在が消滅するか。キミに残された選択肢はそう多くない。ねえ、もうここで、おしまいにするかい? ボクならキミを、苦痛のない方法で眠らせてあげられるよ。
posted by 樋川春樹 at 21:58| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『だんだん』

 そんなことをしていないで早く遠くに逃げなよ、ボクの言葉に、彼女はさらさらとした薄茶色の髪を震わせて頑なに首を振る。柔らかな蜂蜜色は『マスター』の持つ色にとてもよく似ていて、ボクはほんの一瞬だけ、幼い頃のあのひとが目の前にいるような錯覚をおぼえる。
 決然とした表情で下唇をきゅっと噛み締めて、何かとても大きな痛みに耐えるようにしている様子も『マスター』とそっくり同じだから、ボクはだんだん本当に幼稚園に通っている最中か小学校に上がったばかりの頃の『マスター』と一緒にいるような気持ちになってきて、ああ、今目の前にいるのがあのひとであるならばそれはたとえどんなことをしてでも、たとえばこの身が八つ裂きにされたり切り刻まれたり焼き尽くされたりしたとしても、自分のことは後回しにして彼女を守らなければならない、その肌にほんのちっぽけなかすり傷一つつかないように、なんて考えを頭の中でぐるぐると巡らせて。
 それから、違う、いま目の前にいる子どもはただ蜂蜜色の髪を持っているだけのまったくの別人で、だからこのボクが守ったり庇ったり気遣ったり優しくしたり親切にしたりする必要のないモノだ、と迷走しかけた思考を決着させる。
posted by 樋川春樹 at 21:56| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『湿布』

 半分どころか三分の二以上も崩れかけた、持ち主が放棄して久しいその建築物の中で。
 その必要がない、とやめさせようとするボクの拒絶を無視して、彼女はボクの怪我の手当てをした。
 と言ってもその建物には医療用品など中身を床に散乱させた粗末な救急箱がひとつあるきりで元々満足のいくクオリティの医療行為は不可能だったし、そのうえ治療にあたる彼女にしたって出来ることは見るからに不器用極まりない手つきで、血が流れている場所に適当にガーゼを当てたり包帯をぐるぐると巻きつけたり、あるいはとりあえず色が変わっている箇所に湿布を貼りつけてみたりする程度。
 見たところ幼稚園に通っている最中か小学校に上がったばかりかという彼女の年齢を考えれば上出来の処置だと賞賛してあげるべきなんだろうか?
 しかしボクの身体についたそれらの傷はいずれも何の手当てもせずともすぐに塞がりやがては癒えて一つ残らず消え去ってしまうものなのだから、彼女の行為はそもそも無意味なものであって、ボクがわざわざ頭を下げなければならない要素なんか一つもないと思うのだ。
posted by 樋川春樹 at 21:55| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第29週:華涼→樋川

++++


ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『造語』
『くまなく』
『カスタム』

・期限は2013年5月29日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年5月27日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 華涼紗乃 at 18:21| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"圧倒的"

諦めなければ
いつか何とかはなるもんなんだな

どんな不可能なことも
「諦めない」という原動力さえあれば
どんなに遠回りでも
どんなに高い壁でも
いつかはそこへたどり着けるんだな

だから「諦めない」ことこそが
何よりも一番難しい
モチベーションを保ち続けるためには
たくさんの誘惑に打ち勝たないと

どうせダメだと思うかもしれない
他の楽しいことに目が奪われるかもしれない

けれど
自分の生きる道はそれしかないと
心に何度も言い聞かせ
身体に何度もムチをうち
圧倒的な強さを持って自分を動かす

君を見ていてそう思ったよ
笑顔でいつも楽しげに語る内容に
救いは何一つなかったけども
君にとってはそれが
心から満足のいく結末だったんだね

手を合わせて祈る
安らかになんて眠れないだろうけど
せめてあの笑顔のままで
posted by 華涼紗乃 at 18:19| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"非暴力"

ズシンと拳から腕に衝撃が走る
叩いているという感触
殴っているという実感
心地よすぎてクセになりそうだ

叩かれれば痛い
殴られれば悲しい

だから暴力をふるってはいけません
人にやられて嫌なことはしちゃいけない
想像力があるんだからわかるよね

でもこの心の奥底から沸き立つ
暗く、熱く、濃いよどみを
私はどうすればよいのだろう

人は自分と同じ常識を持っている
だから自分が叩かないかわりに
自分が殴られることはない
そんなふうにあぐらをかいていると
私みたいになってしまう

守る術を持つための暴力はまた別の話

あの瞬間に
ショックで心が凍りつくことがなければ
一矢でも報いれたのに

一瞬の絶好のチャンスに
暴力を振るうことをためらう心さえなければ
痛い目を見せてやれたのに

ダンッ、ダンッ、ダンッ…

今の相手はサンドバックだけど
いつか必ず
心の奥底に溜まったものを
全部ぶつけてやる

暴力はダメ
自分を守ることなら良いでしょう
posted by 華涼紗乃 at 18:19| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。