2013年06月19日

『キャラメル』

 深夜のファミリーレストラン
 客の姿もまばらな静まり返った店内で
 俺らの姿は奇異に映るだろうか

 ぼろぼろになったミリタリージャケットを着た男と
 笑えるぐらいに痩せ細って青白い顔色をしたガキと
 関係性のまったく読めない二人が向かい合って座っている

 おいしいものをおなかいっぱい食べたい、と言うからここへ連れて来た
 美味いかどうかは知らないがこんな時間にやっている飲食店なんてここぐらいしかない
 ガキはハンバーグとエビフライがついたセットを注文したが
 ハンバーグを半分以上残しやがった

 余りものを処理している俺に向かって
 次はあまいものが食べたいと言う
 好きにしろと言ってやると
 キャラメルハニーパンケーキとかいうものを注文して
 結局アイスもパンケーキも半分以上食べきれなかった

 他に何か欲しいものはあるかと問うと
 もう何もない、ありがとうと頭を下げる
 そんなワケはないだろう、と口から出かかるが
 これ以上を望まれたところで叶えてやることも出来ないのだ、と気づいて
 何も言わないでおいた

 世界は残酷な方向にだけ平等だ
 『枠』をどれだけ拡大しても
 一番悲惨な運命からは決して逃れられないのなら
 足掻くことにどれほどの意味があるというのだろう?

 食べ残したパンケーキをじっと見つめているガキの暗い瞳には
 もはや過去も未来も見えてはいない
 ただの手違いでほんの少しだけ伸びてしまった生の時間
 それもすぐに終わってしまう
 見なければ良かったような夢

 もしも生まれ変われるなら、

 小さくて臆病な声がかすかに空気を震わせる

 今度は、パパとママと、ずっと一緒に、しあわせに───、

 しまいまで言うことを恐れたかのように、ガキは急に口をつぐむ
 俺は聞こえなかったフリをして、真っ黒に塗り潰された窓の外に視線を投げる

 バカだな、お前どうして、もっと───。

 何か言い返してやりたかったが、こちらの言葉も形をとる前に消えてしまう

 『虚ろ』。
 世界を壊す−取り返しのつかないほどに−子ども達。
 愛されなかった連中は、それでも自ら愛さなかったことに対する報いを受ける。
 目の前にいるガキが人間として生まれ変わることはもうない。
 だから俺は、ここを出たらコイツを始末してしまわなければならない。
posted by 樋川春樹 at 16:31| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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