2013年06月12日

『すでに』

 強くならなければ。と思う度、今はまだ弱い自分が強く認識されて、胸の奥がぎゅッと痛くなる。
 ヒトではない彼らと一緒にいるのだから、自分もヒトではなくなるべきだ。いや、自分など最初からヒトでなければ良かったのだ。
 そうすれば、他人に迷惑をかけずに済んだ。自分が傷つくことも、きっとなかったのに。彼らだって、悲しまなくても良かったはずなのだ。
 もはやどうにも出来ないしどうにもならない、完全に完了してしまった事柄について、またも出口のない思考を巡らせてしまっていることに気づいて、激しく頭を振る。
 すでに起こってしまったことに対して思い悩んだり悲しんだり苦しんだりする必要は微塵もないのだと、彼らは自分に繰り返し言ってくれる。
 キミはもう十分なだけの傷を負って、過剰なほどの痛みに耐えた。キミはもう泣かなくていいし、怖がらなくてもいい。次は世界が報いを受ける番なのだから。
 ───ああ、やはり、そもそもはじめから、自分はヒトとして生まれてくるべきではなかったのかもしれない。頭に浮かぶ全ての論理が著しく混乱していて、収拾がつけられない。
 不自然に途切れて捻れた、辻褄の合わない入れ子になった過去と未来の記憶。赦され護られることしか知らない、自身のいびつなあり方。彼らが差し出す救いの手を取った、自分がそのとき抱いたのは、安堵ではなく怨嗟の感情だったのではないかと。忠実極まりない人形達が与えてくれたのは、救済ではなく復讐の手段だったのではないかと。
 強くならなければ、強くならなければ。割れるようにアタマが痛い。細くて柔らかな自分の髪の毛をぐしゃりと握りしめる。強くならなければ、
 ───強く在らなければ。

 気に病まなくとも、わざわざ願わなくとも、自分はすでにヒトではないのかもしれない。
 きっとそうなのだろうと思う。
posted by 樋川春樹 at 02:22| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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