2013年04月16日

『もっとも』

 『マスター』を行動不能にすれば、『狩人』達は動きを止める。
 『木偶』はそのことを、大昔から知っている。

 『木偶』は自分達の仲間がどれほど壊されようとも意に介さないし、極端な話自分達の目的−『枠』の内部を虚ろで喰い荒らし世界をひとつまるごと駄目にする行為−を何度妨害されようとも、そのことを特別問題視したりもしない。
 自分達が目的を果たせなくとも良い、とまでは思っていないようだけれど。
 『木偶』はどこにでも出現するし、どこででも増殖する。ある『枠』で『狩人』やそれに準ずる存在に殲滅させられたなら、またどこか他の『枠』において飽かず倦まず同じことをするだけだ。

 それなのに『木偶』は稀に自分達が持っている浅い知恵を駆使して、『狩人』の動きを根本から停止させるべく『マスター』を狙うような真似を仕掛けてくる。
 その作戦は『木偶』達の中から自然発生的に生まれるものなのか、あるいはもしかして連中の中にも司令官的な役割を担うものがいて、そいつが気まぐれに考え出すものなのか、こちらとしては知る術もない。

 いずれにしても所詮は浅すぎる知恵だ。その作戦は大昔に一度失敗しているし───今回だって、成功するわけがない。

 一日のうちでも短い間しかない、『マスター』がひとりきりの時間を襲撃されようとも。

 ───『絵描き』は世界を直接描き変える絵筆をとる。

 ボク達のうちの誰かが必ず、ずっと彼女のそばにいるのは、そんな風にして何時如何なるときでも『マスター』を守る必要があるから、『じゃない』。

 ───選んだ色は『赤』、あざやかに力強い、炎の色。

 ただボク達が『マスター』のことをどうしようもなく慕っていて、片時もあのひとのそばを離れたくないと思っているから、本当はただそれだけのこと。

 ───ただの一閃、空間を薙いだ紅は、次の瞬間爆発的な火力となって襲撃者を吹き飛ばす。

 もっとも、心優しい『マスター』は本当に心底争いごとが苦手で嫌いで、相手が『木偶』とは言え自分の能力の攻撃的な側面を発揮するような事態になんて、ならないに越したことはないと考えているのだけれど。

 ───あとには何も残らない。残骸はおろか、灰の一粒、わずかな影すらも、『赤』は焼き滅ぼしてしまった。
posted by 樋川春樹 at 00:12| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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