2013年03月27日

『開花』

 見て見て、アレだよ、ここでもあの木が咲いてるよ。

 私の手をしっかりと握りしめて半ば引っ張るように歩きながら、弾んだ声をあげた彼が前方にある満開の桜を指し示す。

 あの木ってすごく人気があるんだよね。アレがいつ咲くかって、カイカヨソウ? とかいうのをわざわざニュースで流すんでしょう? 植物が咲いたり枯れたりするのをいちいちテレビでやるなんて、ここはずいぶん平和なんだねえ!

 欠片ほどの悪気もない口調で堂々と言い放ちながら、彼は薄桃色の花びらが舞い散る道へと足を踏み入れる。私の手をしっかりと掴んで離さないまま。

 でもここがそういう平和なトコで良かった、そのおかげでこうして一緒にオハナミに来られるんだもんね。おいら、戦ったり殺したりするのは何ともないけど、キケンな場所だと一緒にはいられないでしょ? だから、どっちかで言うなら平和なトコの方が好きかも知んない。

 能天気に物騒なコトを大声で言う彼を、苦笑してたしなめられる程度には私も一連の状況に慣れてきた。
 「今年」と言わず「ここで」という表現を用いるしかないこの生き方にも、あらゆる『枠』から外れた自分達の時間の流れに対する概念も……日を追うごとにそれまであった過去から乖離してゆく感覚、引き返せたハズだった地点をもうとうに越えてしまっている現状、なのに「戻りたい」とはこれっぽっちも考えていない自分。
 もともと人間ではない彼らと比べたときの方が、より「近い」と感じられるようになってきている。
posted by 樋川春樹 at 19:34| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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