2013年02月20日

『てっきり』

 ───死んだ。
 と、てっきりそう思った。

 酷い夢の中から急激に醒めるときのように急に目を開いて、それが早合点だったことを知る。
 こうして目覚めた以上は、ただ意識が途切れていただけのようだ。
 それなら、とほとんど無意識の動作で起き上がろうとして、自分の身体の大半が思い通りに動かせなくなっていることに気づいた。
 仰向けに転がった状態で、しばらくの間ごつごつと冷たい石の感触をただ背中に感じる。

 『木偶』は近頃、段違いに強くなった。それに、ちょっと途方も無いほどの勢いで数を増している。
 少し前までは『木偶』がどれだけいようとこちらは一人で何の問題もなく相手が出来た。殲滅までに大した時間もかからなかった。
 ところが今では、百にも満たない数の『木偶』に少々苦戦するような事態が度々起こるようになった。状況を終了させるまでに前とは比較にならないぐらい時間を費やさなければならなくなったし、稀にとは言え今まさにそうなっているように行動不能になるほどの傷を負わされさえするようになった。

 『枠』の中にはいたるところ『木偶』が溢れている。
 『木偶』とは、つまるところ愛することも愛されることもなかった魂のなれの果てだ。
 愛されたいと願いながらもついにかえりみられなかったもの。
 自らが愛することを最後までおぼえられなかったもの。
 誰からも必要とされず誰をも必要とせず、ほんとうの意味でのつながりを持てずに、宙に浮いてしまった存在。
 その欠片がひとつところに集まり、引き返せないほどに変質してしまったもの───それが『木偶』だ。
 昔、そのように説明されたことがある。

 ひととは異なる『狩人』である彼には詳しくはわからないが、『枠』の中はもう随分と不幸で物騒な場所になってしまったようだ。
 自分達がどれだけの数の『木偶』を壊しても、『枠』の内側が永遠に変わってしまったのであればそれはしても無駄な努力ということになるのかもしれない。
 それでも、『狩人』は与えられた使命のままに『木偶』を壊し続けるだけだ。
 全ての『木偶』が全ての『枠』から姿を消すまで───あるいは、もしかしたら、自分が『木偶』に壊される日が、来るまで。
posted by 樋川春樹 at 02:03| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。