2012年11月28日

『まったく』

 OKです、ありがとうございました、それでは良い一日を! の声に送られて、ボク達はようやくゲートをくぐる。
 予定よりも若干遅くなってしまったけれど、計画に致命的な狂いが生じるほどではない。連休の中日、最も来場者数が多くなるだろう日を実行日に選んだ時点で、時間にはそれなりのゆとりを持たせて行程を組んである。

「ねえねえ、せっかくだからさ、一番人気のコースターぐらいは一回乗ってからにしようよ。こんなチャンスなかなかないんだしさ、ちょっと楽しむぐらい大目に見てくれるって」
「あそこにあるインフォメーションボードを見てみろよ、おマエが言ってるそれは200分待ちって表示されてるぞ。いくら今日はタイトなスケジュールじゃないからって3時間以上も遊んでられるワケないだろ。まったく、その能天気な性格はいつになったら改められるんだ?」
「ちぇー、つまんないのー。だってさ、ココッてこれからしばらくエイギョーテイシにしちゃうんでしょ? だったらその前に乗ってみたかったのに。でも確かに、200分待ちなんかしてたらいくらなんでも怒られちゃうよね。しょーがないか、また別のトコ行くチャンスが出来たらにしよっと」
「別のテーマパークに行くことになったとしてもボク達には呑気にジェットコースターに乗る機会なんか永遠に巡って来ないよ。さあ、さっさと仕事にかかろう」

 カバンの中から、さっきしまったばかりのペットボトルを取り出す。
 ボトルの半分程入っている、半透明の白に濁った液体がちゃぽんと揺れる。
 それから、パークの案内図を上着のポケットから出して広げる。
 入ってすぐのところで配布されている新しいものではなく、既に使い古されて傷みが目立つようになっているもの。ボク達の二日前にここに来た仲間から引き継いだマップだ。

「設置ポイントは25箇所。この混雑だ、テンポ良く回れても結構時間を食うよ。遊んでる暇はない」

 3種類の薬品を混ぜ合わせ一定の時間をおくことで、有毒なガスを生じさせることが出来る。

 二日前−空港で騒ぎが起こってこのパークの警備が強化されるよりも前−ボク達の仲間の一人がここに『ポット』を仕掛けに来た。まだ所持品チェックが行われていなかった頃−ハロウィンの時期、来場者による仮装イベントが実施されていて、大きな荷物を簡単に園内に持ち込むことが出来た頃。
 ごく小さな金属製の容器と、1種類の薬品。それをパーク内のいたるところに設置した。
 そして今日、ボク達の任務は、既にあるその容器に残り2種類の薬品を注ぎ込むこと。

 液体の持ち込みまでチェックされるほどに警備体制が強化されたのは想定外の出来事だったけれど、係員の目の前でひと口飲んで見せさえすればそのまま持って入れると言うのなら問題はない。
 人間であれば口に含むことなど出来ないような劇薬だけれど、ヒトではないこの身にとってはたやすいことだ。毒物の摂取で生命を落とすこともないし、妙な味のものを口に入れたからと言ってそれを吐き出してしまうようなこともない。
 持ち込んだ液体を係員に飲ませなければならないというのであればまた別の方法を考える必要があっただろうが。

「ボクは全部アタマに入ってるから、マップは持って行っていい。ボクは時計回りにポイントを巡るから、おマエは反時計回り。打ち合わせた通りだ。くれぐれも、途中でパレードとかショーとかキャラクターのグリーティングとかに気をとられるんじゃないぞ」
「シンヨーないなぁ、わかってるって! んー、でも、せめてあの浮かれたデザインのカチューシャぐらいは買って着けててもいいよね?」
「いいワケないだろ? って言うかそう訊いていいって言うとおマエは本当に思ってるのか?」
「だよね。はぁい、ちゃんとおシゴトしまーす」
posted by 樋川春樹 at 01:41| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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