2012年11月28日

『過敏』

 チケットブースを通り過ぎてから入場までにやたらと時間がかかったのは、エントランスゲートの前で所持品チェックが行われていたからだった。
 魔法と冒険の国、みたいなメルヘンなフレーズに惹かれてやって来たお客達を束の間であっても現実に引き戻してしまうような、物々しい光景。
 もちろん、チェックに当たっている係員は必要以上に威圧的にならないよう細心の注意を払ったファンタジーな制服姿、いかにも爽やかな笑顔を満面に絶やさず浮かべて来場者に余計なプレッシャーを与えないよう万全の心配りがなされていたけれども。

「えぇー、カバンの中を見せるだけじゃなくて、ペットボトルのジュースは飲んで見せなきゃいけないの? それってちょっとゲストを疑り過ぎなんじゃないの?」

 同行者がわざと大きな声で係員に不平をぶつけている。対応している係員は誠に申し訳ございませんみたいな表情でしきりと頭を下げているけれど、だからと言ってチェックの手を緩めてくれる心づもりはなさそうだ。同行者がカバンに入れて持ち込んだ炭酸飲料のペットボトルを白いクロスで覆われた長机の上に置いて、ひと口飲んでからカバンにしまうように促している。
 ボクのカバンの中からもスポーツ飲料のボトルが取り出されて、同じ机の上に載せられていた。

「仕方ないだろ、最近はどこも色々と物騒なんだから。過敏になって当然だ。こないだ空港でも危険物持ち込み未遂の騒ぎがあったし、こういうチェックが厳しくなってるのはこの人達のせいじゃない。くだらない文句言ってないで早く飲みなよ」

 中身が半分入ったペットボトルを取り上げて、当たり前の動作でキャップを外してあおってみせる。
 同行者も、そーだよね、ごめんね、と係員ににっこり笑いかけてちょっと頭を下げてから、ボクと同じようにする。
posted by 樋川春樹 at 01:39| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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