2011年07月24日

『初雪』

 彼女が生まれたのは
 その年に雪が降った最後の日の、翌日のことだった
 戸外には真っ白な雪がまだ溶ける気配もなく残っていて
 それでもこれから春に向けてこの冷たさも緩んでゆくのだと
 人々が冬の間中厳しく引きしめていた気持ちを
 ほんのわずか笑顔と共にほどいた日のこと
 彼女が生まれたのはそんな日だった

 雪も氷も溶けて
 すぐに春が来る
 いのちは芽吹き
 大地は緑に包まれて
 陽射しは強さを増して
 やがて夏になる
 世界を溶かしてしまいそうな熱
 ゆらゆらとたちのぼる陽炎
 渇きを呼ぶ暑さも永遠ではなく
 いつしか風は冷えて
 すべてが色づく秋が来る
 動物たちは間もなく来る冬に備え
 忙しげに木の実を集めて回る

 そしてその年の初雪が降った日の、前日のこと
 彼女は静かに息を引き取った
 あどけない頬に浮かんだのはただの眠りにしか見えなかったけれど
 よろこびもかなしみも知らないままに
 小さな彼女はもう二度と目を覚まさなかった
 ただの一度も降る雪を目にしないまま
 小さな彼女はどこにもいなくなったのだ
posted by 樋川春樹 at 17:58| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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