2011年03月20日

教会

このホテルで結婚式を挙げたんだ。
叔父さん夫婦に仲人になってもらって。
神父がギャグみたいにカタコトの日本語で話してさ。
面白かったけど笑えないもんだよな、あんな場面では。
その時はこのホテルもピカピカだったのにな。
今はもうボロいけど、思い出の場所がまだあるのは嬉しいものだよなあ…

歩きながら、上機嫌で過去を語るあの人の話を笑顔で聞いている。

私の片手は、あの人に掴まれて、あの人の手と共にあの人のポケットにねじ込まれていて、あたたかい。

この状況で、そんな思い出を語るあの人の思考回路が理解できない。

交わされたであろう、生涯の誓いの言葉。
交わされたであろう、はにかみながらのくちづけ。

そこから先は、考えたくない。

降り注ぐ祝福、笑顔、花びら。

それらをすべて裏切っている自らの手を、一体どう考えているのだろう。

カタコトの神父の言葉に笑いを噛み殺しながら交わす、永久の誓い。

この人に手を掴まれている限り、私には永遠に訪れない。

それでも、この人以外にそんなことをしたい相手を見つけられないのだ。

少しだけ何かを呪いたい気分になって深い息を吐くと、風向きのせいか、白いモヤは私たちに降り注ぎ、かき消える。

闇を歩く私たちに降り注ぐのは、祝福ではなく、吐き出した自らの呪いの吐息。

せいぜいそれくらいがお似合いか。
ふふ、と笑うとまたしても白いモヤ。

鼻唄を歌うあの人が、暗がりで足を止める。
予感がしてわずかに見上げると、案の定、押し付けられる唇。

誰かに見られたら恥ずかしいからやめて、とあの人を押し戻していた時期は過ぎた。

片手は自由を取り戻したけれど、結局は両手をあの人に絡み付けるだけ。

たとえ神さまが見ていても、止まれない。

誓いなんて信じないから、今しかいらないから。

自由なんていらない。
祝福なんていらない。

呪われてもしかたない。

お互いが吐き出す白いモヤを身体に浴びているのだから、しかたがない。
それでもいいから、もっとちょうだい。

交わされるのは、熱い呪詛。
交わされるのは、呪いのくちづけ。

そこから先は、考えたくない…
posted by 葉瀬尋 at 19:02| Comment(0) | ひろ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。