2011年02月27日

『紙袋』

 腕の中で、かさかさと、
 質の悪い紙が音を立てる。

 しっかりと胸に抱きしめているのは、
 ひとりで運ぶには少しばかり重過ぎる紙袋。

 うんしょと抱え直したあたしに気づいて、
 親切そうなおばさんが一緒に持とうかと声をかけてくれたけれど、
 ううん、大丈夫です、ありがとう、
 笑顔で首を振って、
 あたしは一人で歩き出す。

 誰かに手伝ってもらうわけにはいかない、
 だってコレはあたしの仕事、
 大事なあたしの仕事、
 紙袋の中には天国へのカギが入ってるんだもの。



 どこでもいいからヒトのたくさんいる場所で。

 子どもが持つ紙袋の中身を怪しむような奴はいないだろう。

 これを成し遂げればお前は英雄になれる。
 お前の家族も英雄になれる。
 お前は天国に行ける。
 お前の家族も……



 あたしは、何にも、出来ない子だったから。
 他のことで役に立つことが、出来なかったから。

 視線を感じた気がした。
 顔を向けると、背の高い男の人がふいと顔を逸らした気がした。
 一体誰だろう、このあたりでは見たことのない人だ。

 でも、もう、あたしには、関係のないこと。

 紙袋の中身は天国へのカギ。
 あたしが抱きしめているのは、あたしの大事な仕事。
 かさかさと音を立てるそれをぎゅっと抱きしめて。

 あたしは、ねえ、それでも、
 生きてきた中で一番、今日が一番──────
posted by 樋川春樹 at 23:38| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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