2013年06月12日

【指令】第32週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『迷走』
『透視』
『システム』


・期限は2013年6月19日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年6月17日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 02:25| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『サークル』

 三つ子の魂百まで、とはよく言ったもの。
 幼稚園に入るか入らないかの頃から始まったオカルト好きは留まるところを知らず加速。
 小中高を他人には理解され難い趣味と共に乗り越えた私は、大学に入ってからも『都市伝説同好会』なる怪しげなサークルに籍を置き、家族や友人達を絶賛呆れさせている。
 小さな頃の私の胸を躍らせた、ネッシーもミステリーサークルも妖精写真も、人為的なトリックであると解明されてしまったけれども。
 世の中にはまだまだ科学では説明のつかない不思議なことが大量に存在する。
 百の内の九十九がインチキや勘違いであっても構わない、たった一つでも本当に本物の超常現象があるのならば、私は一生に一度でいいからそれを目撃してみたい。
 自分でもわけのわからない情熱につき動かされ、数多の心霊スポットを訪ね歩き自己責任系の怪談を読み漁り、ときとしてリアルな危険に身を晒しながらも怪異を不思議を求め続けたけれど、望んだものは手に入らない、入る気配もない。
 そんな私が今日やって来たのはとある駅、南口の東側、『故障中』の貼り紙がされた青い扉のコインロッカー。噂によるとこの扉の向こう側には、一生に一度だけその人の運命を変えられるモノが隠されているらしいのだけれど……。

「……なんか心苦しいけど、ああいう知的に前向きで楽観的なタイプはパスしよう。面白そうではあるけれど、一度存在を知られたが最後延々とつきまとわれそうな気がするから」
「あーいうタイプが『枠』の外に出たらどういう存在になるんだろうなあ。あのテンションのまま無限を生きたりするのかねえ?」
「自分自身がある意味怪奇現象になっちゃうワケだから、嬉しいのかそうでもないのか……わからないけど、とにかく面倒くさそうなのは確かだと思う」
「じゃあアレはパスということで。よその街から電車乗り継いで来てんのに気の毒なコトだなぁ」
「かわいそうだけどねぇ」
posted by 樋川春樹 at 02:22| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『すでに』

 強くならなければ。と思う度、今はまだ弱い自分が強く認識されて、胸の奥がぎゅッと痛くなる。
 ヒトではない彼らと一緒にいるのだから、自分もヒトではなくなるべきだ。いや、自分など最初からヒトでなければ良かったのだ。
 そうすれば、他人に迷惑をかけずに済んだ。自分が傷つくことも、きっとなかったのに。彼らだって、悲しまなくても良かったはずなのだ。
 もはやどうにも出来ないしどうにもならない、完全に完了してしまった事柄について、またも出口のない思考を巡らせてしまっていることに気づいて、激しく頭を振る。
 すでに起こってしまったことに対して思い悩んだり悲しんだり苦しんだりする必要は微塵もないのだと、彼らは自分に繰り返し言ってくれる。
 キミはもう十分なだけの傷を負って、過剰なほどの痛みに耐えた。キミはもう泣かなくていいし、怖がらなくてもいい。次は世界が報いを受ける番なのだから。
 ───ああ、やはり、そもそもはじめから、自分はヒトとして生まれてくるべきではなかったのかもしれない。頭に浮かぶ全ての論理が著しく混乱していて、収拾がつけられない。
 不自然に途切れて捻れた、辻褄の合わない入れ子になった過去と未来の記憶。赦され護られることしか知らない、自身のいびつなあり方。彼らが差し出す救いの手を取った、自分がそのとき抱いたのは、安堵ではなく怨嗟の感情だったのではないかと。忠実極まりない人形達が与えてくれたのは、救済ではなく復讐の手段だったのではないかと。
 強くならなければ、強くならなければ。割れるようにアタマが痛い。細くて柔らかな自分の髪の毛をぐしゃりと握りしめる。強くならなければ、
 ───強く在らなければ。

 気に病まなくとも、わざわざ願わなくとも、自分はすでにヒトではないのかもしれない。
 きっとそうなのだろうと思う。
posted by 樋川春樹 at 02:22| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『革靴』

 ひっくり返った車体の下から、革靴と黒いズボンを履いた片足がのぞいていたから、無造作に掴んで引っ張り出してみた。特に助けてやろうという気持ちもなくほとんど無意識の行動だったけれど、存外に軽い手ごたえに少しだけ驚いた、靴を履いたままのその足は膝から上が存在しなかった。焼け焦げた切断面に視線をやる。黒いズボンが少しだけとは言え焼け残ったのは実に不思議なことだ。

 もはやただの物体に過ぎない人体の一部を地面に放り出して、周囲をぐるりと見渡す。数箇所から空に向かって薄く立ちのぼる煙と未だ消えずにしつこく建築物を焦がし続けている炎の他には、視界いっぱいどこにも動くモノの姿は見当たらない。つい先刻念を入れて確認したばかりなのだけれどそれでも、絶対に見落としがないようにと改めて注意深く見える範囲の全てをチェックする。崩壊した都市、散乱する死体の切れ端、飛び散った血液と肉片、原型を留めない機械の破片、炎、煙、濃厚に漂う死と喪失の気配、どっちを向いてもそこにあるのは紛れもない、『枠』の終焉の姿。それぞれにディテールの違いこそあれもう十分に見慣れた光景だ。

 自分達は忠実に任務を遂行しているのだ、と思う。それなのに、ときどき自分達が本当は何をするべきなのか、ほんの少しだけあやふやになる。自分達がどれだけの成果を挙げても、それを褒めてくれるときあのひとはいつもどこか悲しそうにしているから。だから他に何か出来ることがあるんじゃないか、なんて考えが脳裏をよぎってしまう。
posted by 樋川春樹 at 02:21| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月05日

【指令】第31週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『革靴』
『すでに』
『サークル』

・期限は2013年6月12日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年6月10日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 17:27| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"線路"

先が見えないものだ
前も後ろもない
どこからかここに連れられ
どこかへまた運ばれていく

始点も終点もあるはずなのに
その限りがわからないところが
線路のいいところ

まるで自分みたい
どこから来たのかは忘れた
どこへ行くのかはわからない
ただこの瞬間だけは
自分は存在していると感じる

だから僕は終点の駅は嫌い
線路がぶっつりと切られて
コンクリートの壁が
暗く、高く、そびえているのは
自分まで断ち切られそうで落ち着かない

過去にも未来にも目をむけず
かと言って
全部なくなってしまうのは惜しくて

とても曖昧な途中の線路がいい
そこに立って
始点や終点に歩き出そうともせずに
ただ見えない限りを
見るフリをしているのが一番かっこいい
posted by 華涼紗乃 at 17:21| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"新陳代謝"

今はまだ誰も知らない技術
それをこれから少しずつ浸透させようと思う

その過程でどんと儲けさせてももらうつもりだ
何といっても研究には金がかかる

私が手がけているのは新陳代謝に関する研究だ
古い細胞と新しい細胞が入れ替わる、それ
そのスピードは今まで決まっていた
もちろん、生活習慣やサプリ、化粧品などで
活性化させることは出来る

…だが微々たるものだ

私は新陳代謝をある一点に絞って
爆発的に早くする方法を開発した

これが世に出れば
女性の肌はみんな美しくなるだろうし
内臓も若々しく保つこともできる
ひょっとしたら平均寿命も伸びるかもしれない
難病といわれるものも治る手立てが見つかるかも

まだまだ実験段階だ
すぐに様々な認可が下りるわけではない
だからお金を持っているやつらに
そっと近づいて耳元で囁く

健康な肉体がお金で買えますよ、と


posted by 華涼紗乃 at 17:20| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"歓迎"

大きく手を広げて
さあ!飛び込んでいらっしゃい!なんて
きっと昔は柄でもなかったんだろうけど
今は何かもう条件反射的みたいな

包み込んで甘やかして
離れられなくしようと
思ったわけではないのだけれど
求めるものが透けて見えたら
応えるのはたやすいことだから

まあ私も流されてるだけなんだけど

思うに愛情というものは
言葉と態度の積み重ね
こういうこと言うってことは…
こういうことしてくれるってことは…
そう想像できるから

でもわりと感情だけじゃなくて
その場のノリでとか、反射でとか
あんまり単純じゃないことは
自分でも良くわかってきた

とりあえず打算で
歓迎しておこうと思う

…なんて照れ隠しかな
posted by 華涼紗乃 at 17:19| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月04日

【指令】第31週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『カード』
『出発』
『話題』


・期限は2013年6月12日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年6月10日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 00:54| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『スキンケア』

 人間の女性であるというのは大変なことなんだね、と呟いた声が、自分でも想定していたよりも他人事の口調で。
 広げていた雑誌からふと顔を上げてテーブルの向かい側に座っていた『姉』に視線を向けたのは、呑気過ぎる自分の台詞に相手がどんな反応をしたのか確かめたかったから。
 けれど、と言うべきか、やはり、と言うべきか、『姉』は普段通りの冷徹な無表情のまま、自分が見ているのとは別の雑誌のページを淡々とめくっているだけ。
 相槌を打つどころか目を上げることさえしなかったけれど、彼女が自分の話をちゃんと聞いていることは経験上知っていたから、そのまま発言を続ける。
 スキンケアって言うの? それひとつとっても、洗顔の後に色んなクリームやら何やらを塗りたくってきっちりケアするのが良いって言われたり、逆に余計なものをあれこれ使わずにナチュラルな素材でつくった石けんだけで洗った方が良いって言われたり。ダイエットのやり方もファッションにしても、正解なんかない問題にたくさん振り回されないといけないみたい。

 ねえ、自分がソレを模してるだけで実際は『人間の女性』じゃなくて、良かったと思う?

 悪戯っぽく笑いを含んだ声で問うと、『姉』はほとんど表情をかたちづくることのない唇にほんのかすかな、本当にかすかな苦笑のような色を浮かべて、あれこれ振り回されないといけないのは『人間の男性』も結局同じだ、と静かな声で呟いた。ただ、私達がそれらに関わらないようにしているだけだ、と。

 時間に縫い止められ世界に記憶された『姉』の容姿は煩雑な手順を踏まなくとも、最初につくられたときの若いままの姿で在り続ける。彼女と性別だけを違えた自分の外見も然り。

 人間であることは大変なんだね、言いなおした声もやはりどうしようもなく自分自身には無関係なことを語る声色だったから、けれど自分達は過去に一度も人間であったことがないのだから、それもまた仕方のないことなのかな、と少しだけおかしくなる。
 ───雑多な雑誌を読み漁って使い捨ての情報を詰め込んで、どうにかして生きた人間を真似ている自分達の滑稽さ。
posted by 樋川春樹 at 00:52| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『およそ』

 『狩人』には寿命はない。
 もとよりまがいものの生命が尽きるはずもなく、仮に『木偶』もしくはそれに準ずる存在に完膚なきまでに叩き壊されたとしても、肉片のひとかけらからでさえ───細胞の一片からでさえ───再生することが出来る。
 形式を真似ただけに過ぎない偽りの生を無限に反復する彼らにとって、およそ百年という短い間しか生きられない人間の存在、人間の生きる時間は、取るに足らなくてちっぽけでどうしようもなくて、それでいてはかなくてもどかしくてやりきれない。
 『狩人』達にはいつか必ず終わる生を生きている人間達の気持ちがわからないし、ちょっとしたことであっけなく死んでしまう脆弱な身でありながらときとして本当に無謀で愚かなことに踏み切ってしまう人間の精神構造がわからない。
 姿形や立ち居振る舞いを模倣して、人間達の社会の中で暮らせるように様々な技能を身に着けておきながら、根本のところは絶望的にわからない、想像してみることさえ出来ない。

 いつか終わりがあるなんて、それはきっと悲しいだろう。

 いや、多分すごく恐ろしいことに違いない。

 もしかしたら、とても悔しいことかもしれない。

 でも本当は、ほんとうは素晴らしいことなのかもしれないな。

 『狩人』達が口にする感情を表す言葉さえも、実のところ人間達が使うその音を真似たものに過ぎないのかも、しれない。
posted by 樋川春樹 at 00:51| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『改札』

 ほら、あそこを見てごらん。
 この指の先にある、改札のすぐそばのところ。
 犬が一匹、きちんとおすわりしているのが見えるかい?
 あの犬は、もう何か月も毎日同じ時間にここへやって来て、すっかり夜になって駅を利用する人が完全にいなくなるまで、ああしてじっと座って待っているんだよ。
 何を、って?
 今ではもうこの世にいない、愛するご主人様の帰りを、さ。

 数か月前までは、あの犬は改札をくぐって出て来るご主人様に連れられて、夕暮れの道を一緒に家まで帰って行ったものさ。
 でもあの犬がこよなく愛したご主人様は、事故であっさり亡くなったんだ。
 ご主人様はもういない、どこにもいないのに、あの犬はああして毎日あの場所へやって来て、以前のようにご主人様の帰りを待っている。
 感動的なハナシだと思うかい?
 忠実で賢い犬の、涙を誘う美談だと思うかい?
 素直に解釈するなら、そうなんだろうね。
 そうなんだろうし、そう解釈しておけば、世の中はうまく回っていくのだろうね。

 けれど、こうも考えられはしないかい?

 あの犬は、主人の死を理解出来ないほどに愚かなのだと。
 愚鈍であるが故に、あの犬は状況の変化を把握出来ない。
 あの改札から待ち人が出て来ることはもう決してないのに、それでも頑なに同じ時間同じ場所でああやって待ち続けるのであれば……それは、身に染みついた行動をただなぞっているだけ、日課となった行動を機械的に反復しているだけ、ではないのかな?
 本当に忠実で本当に賢いのならば、あの犬は今頃主人の墓石の前にいるはずさ。

 あるいは、こうも考えられるんじゃないかな?

 亡くなった主人をああやって慕い続けているあの犬に、この駅の周辺に店を構えている人々はとても優しくしている。
 お腹が空いてはかわいそうだとあれこれとえさを与えて、暑い日には水を用意してやったりもする。
 それでなくてもまめに声をかけて撫でてやったり、とにかくあの犬を決して邪険には扱わない。
 だからあの犬は要するに、そんな風に大勢の人間にちやほやされたいからここに来るのではないのかな? あの場所に来てああして座っていれば、大勢の人間が自分を構ってくれる、おいしいものをくれるということを学習したから、だからああしているだけではないのかな?
 ねえ、もしもこの付近の人達があの犬を疎ましく思って、水をかけたり棒切れで叩いたりして追い立てたりしたら、それでもあの犬はあの場所に戻ってくるのかな?

 人間は、自分でも気づかないうちに自分自身で設定した『枠』でもって、世界を切り取って解釈する。
 あの犬がどうしてあそこで座り続けているのか、何かを待っているのかどうかさえ、あの犬自身にしか結局わからないことなのに、意味づけの毒に狂った人間の脳はそこに物語を読み取らずにはいられない。

 でもまあ、じっくりよく見るとなかなか利口そうで、愛嬌のある顔つきをしたかわいい犬だよね。
 近くに寄ってちょっと撫でていこうか?
posted by 樋川春樹 at 00:51| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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