2013年04月16日

【指令】第24週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『名無し』
『濁点』
『キーホルダー』


・期限は2013年4月24日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年4月22日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 00:16| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『キッチン』

 キッチン、という単語から連想するのは、父親の背中、そして父親の死、だ。

 ひょろりと細い身体の背中を少し丸めるようにして、よれよれになったエプロンを着けて、私のために食事をつくってくれている、父親の姿が思い出される。
 と同時に、冷えた床に身を投げ出すようにして、動かなくなっていた彼の姿も脳裏に浮かんでくる。

 私の父親は気が弱くてお人好しで、周囲から面倒な仕事を押しつけられてばかりいた。頼まれると断れなくて、困ってる人を見ると放っておけなくて。自分がしなくても良いような仕事ばかりを大量に抱え込んで、残業続きの毎日だった。
 子どもが生まれたばかりだというのに家で我が子とふれあう時間もとれず、生まれたばかりの子どもと二人きりで家に閉じこもっているしかない妻をフォローする時間もとれず。

 やがて精神的に追い詰められた母親は、他人にいいように使われてばかりの父親と泣きわめいてばかりで手のかかる赤ん坊とに愛想を尽かして、姿を消してしまった。
 彼女が何を考えてそうしたのか、その後どこへ行ってしまったのか、未だに誰にもわからずにいる。

 妻に逃げられた夫は、たった一人で子どもを育てなければならなくなった。
 育児の時間を捻出するため職を替え、収入減を補うために住居を替えた。
 父親は本当に一生懸命、それこそ全身全霊を賭けて、私のことを育ててくれた。
 自分のことは全部後回しにして、唯一の家族である私が不自由な想いをしないように、いつだって気遣ってくれた。

 毎日あたたかい食事を用意してくれた。
 彩り豊かで凝ったお弁当も持たせてくれた。
 学校の勉強もみてくれたし、長期休暇のたびに遊びにも連れ出してくれた。
 絵に描いたような理想の父親だった。
 私にはそれがずいぶん自慢だったものだ。

 けれど父親は改めて言うまでもなく絵に描いたものではなく生身の存在だったから。
 自らをまるで省みない過剰な優しさの果てに、私が高校最後の授業を終えて帰って来たその日、キッチンの床に倒れて、つめたくなっていた。

 テーブルの上に置かれたスーパーの袋から、たまねぎとじゃがいもがこぼれ落ちて、父親の顔のすぐそばに転がっていた。
 その夜の献立は、私の大好きなカレーライスにするつもりだったようだ。

 母親が家を出たのは、自分の情けなさが原因だ。
 一度も言葉にはしなかったけれど、父さんはきっとずっとそう考えていたのだと思う。
 自分の不甲斐なさのせいで母親を失ったこの子に、だからもう決してつらい想いをさせてはいけない。
 父さんのことだからずっとずっとそう思っていたのだろう。

 それは間違っている、と言いたかったけれど。
 彼がそう思っていたからこそ、私はしあわせに育てられたのだし。
 それを正しい、と認めるとするならば。
 彼の人生はあまりにも、他人のためのもの過ぎて。
posted by 樋川春樹 at 00:13| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『もっとも』

 『マスター』を行動不能にすれば、『狩人』達は動きを止める。
 『木偶』はそのことを、大昔から知っている。

 『木偶』は自分達の仲間がどれほど壊されようとも意に介さないし、極端な話自分達の目的−『枠』の内部を虚ろで喰い荒らし世界をひとつまるごと駄目にする行為−を何度妨害されようとも、そのことを特別問題視したりもしない。
 自分達が目的を果たせなくとも良い、とまでは思っていないようだけれど。
 『木偶』はどこにでも出現するし、どこででも増殖する。ある『枠』で『狩人』やそれに準ずる存在に殲滅させられたなら、またどこか他の『枠』において飽かず倦まず同じことをするだけだ。

 それなのに『木偶』は稀に自分達が持っている浅い知恵を駆使して、『狩人』の動きを根本から停止させるべく『マスター』を狙うような真似を仕掛けてくる。
 その作戦は『木偶』達の中から自然発生的に生まれるものなのか、あるいはもしかして連中の中にも司令官的な役割を担うものがいて、そいつが気まぐれに考え出すものなのか、こちらとしては知る術もない。

 いずれにしても所詮は浅すぎる知恵だ。その作戦は大昔に一度失敗しているし───今回だって、成功するわけがない。

 一日のうちでも短い間しかない、『マスター』がひとりきりの時間を襲撃されようとも。

 ───『絵描き』は世界を直接描き変える絵筆をとる。

 ボク達のうちの誰かが必ず、ずっと彼女のそばにいるのは、そんな風にして何時如何なるときでも『マスター』を守る必要があるから、『じゃない』。

 ───選んだ色は『赤』、あざやかに力強い、炎の色。

 ただボク達が『マスター』のことをどうしようもなく慕っていて、片時もあのひとのそばを離れたくないと思っているから、本当はただそれだけのこと。

 ───ただの一閃、空間を薙いだ紅は、次の瞬間爆発的な火力となって襲撃者を吹き飛ばす。

 もっとも、心優しい『マスター』は本当に心底争いごとが苦手で嫌いで、相手が『木偶』とは言え自分の能力の攻撃的な側面を発揮するような事態になんて、ならないに越したことはないと考えているのだけれど。

 ───あとには何も残らない。残骸はおろか、灰の一粒、わずかな影すらも、『赤』は焼き滅ぼしてしまった。
posted by 樋川春樹 at 00:12| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『靴下』

 近頃は「なるべく人目に立たないように」どころか「おマエのセンスは独創的過ぎるからもう自分の判断でコーディネートするな」なんて言われるようになった。
 ヒトのファッションセンスをどうこう言う前に自分がもうちょっと流行りのカッコをするように気をつけてみたらいいのに、そもそも「誰にも目撃されない」ことを前提に行動してるときにはどんな服を着ていたっておいらのジユウってヤツじゃないの?
 奇抜な服装をしている程度で目立って見つかりやすくなるような中途半端な隠密行動はしてないつもり。動きやすければいいと思う。どうせならテンション上がるようなファッションの方がいいじゃないか。
 なんて主張、してみたところで聞き入れてはもらえない。ファッション雑誌にあふれてるような、街のどこででも見かけるような服を着てれば、うるさくお説教されることはないんだけど、それって全然つまんないよね。
 だから最近は、こっそり靴下だけ左右柄が違うのを履いてみたり、スニーカーの靴紐を左右色違いにしてみたりするようになった。
 ヘアスタイルやアクセサリーにまでばっちり気合いを入れてても、足もとがお留守になってる奴ってまだまだ結構多い。それってファッションに興味ないような連中はなおさら靴下とか靴とかなんて見ないってコトだもんね。
 おかげでちょっとしたお洒落を楽しめるようになった。もしもこれがバレたら、不必要なお洒落になんか意地になって取り組むのは理解出来ないとか言われちゃうのかな。
 人間になりたいわけじゃないのに、人間と同じようなことをしたいと思ってしまうのは何故なんだろう。人間のやり方を真似して人間の考え方をなぞる。絶対に同じものにはなれないし、なりたくもないのに、何の役にも立たないもろもろを追いかけているときが、楽しいと感じるんだ。
posted by 樋川春樹 at 00:12| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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