2013年03月27日

【指令】第21週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『透明感』
『使いまわし』
『報告書』


・期限は2013年4月3日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年4月1日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 19:38| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『サプリメント』

 異様に勘の鋭い人間というのがたまにはいるもので、彼女はほぼ一目見たその瞬間からボクに不審なものを感じ取ったようだった。一瞬にも満たない短い間目が合った、ただそれだけのことで、激しい敵意と警戒心をあからさまに向けられたんだから、抗議して謝罪してもらおうかと思ったぐらいだ。まあ、変にモメるような事態は避けたかったし目立ってもメリットなんか何にもないから、わざとらしく気づかないふりをしておいてやったけれど。

 せっかく関わらないようにしてやっているのに、彼女はずっとボクをマークし続けた。ここまでの監視を一秒の隙もなく続けられると、残念ながら今日の計画は中止ということにせざるを得なくなる。仕事を中断されないように彼女を排除してしまおうかと、そのことを考えなかったと言えば嘘になるけれど、あの敵愾心の抱きっぷりじゃボクが声をかけたところで他の人がいる中で騒がれるだけで、ただ単に厄介なことになってしまいそうなだけだったから、それもやめておく。

 それじゃあ今日のところは引き上げようかとパーティー会場を抜け出しかけたところで、驚いたことに彼女の方からボクにコンタクトしてきた。同業者なのだろう男性二人をお供にくっつけて。身分証明書を提示しながら、ボクの振る舞いに不審な点があるから所持品のチェックをさせてもらいたいと詰め寄って来る。ボクはまじまじと彼女達のカオを見つめ返してしまう。今日のボクは正真正銘本当に何もしていないと言うのに、一体どういうつもりでコイツらはカバンの中身を見せてみろなんて偉そうな口調で命令してくるのだろう?
 込み上げる苛立ちと嫌悪感にふと衝動的な行動をとってしまいそうになったけれど、かるく深呼吸して自制する。チェックされて困るようなことは何もないのだから、彼女達の好きにさせてやればいい。

 廊下の隅に連れて行かれたボクは、可憐な花が品良く活けられた花瓶が飾られている白いテーブルの上に、持参していたカバンから取り出したものを次々と並べて行った。スマホに財布、交通系ICカードが入った定期入れに読みかけの文庫本、ハンカチとポケットティッシュ、複数の鍵をまとめてあるキーホルダーに折り畳みの傘。あとは眠気覚まし用のガムと、コンビニで売ってる安物のライター、目の疲れを癒すためのブルーベリーエキス入りのサプリメントの袋。
 こちらがちょっと気の毒になってしまうぐらい、無難なモノしか出て来ない。せめてサプリをピルケースにでも入れ替えて正体不明の薬物っぽくしておいてやれば良かったかも。ライターを持っているのにタバコがないのは何故かと、男の一人がヤケになったみたいに細かいところをつついてきたけれど、喫煙者の友人が忘れて行ったものを返すために持ち歩いているだけだと答えるとそれ以上はツッコんで来られない様子だ。どのみち、100円程度で買えそうなライターがカバンの中に入っていたからと言って、それだけで身柄を拘束出来るワケもない。

 それでも彼女はあきらめなかった。自分の職業に余程誇りがあるのだろう、大した使命感だ。そこらのドラッグストアに山と積まれているようなありふれたサプリメントの袋を指さして、その中身を調べたいと言い出した。調べたいと言われても、どうやって? 鑑識に持ち帰って成分分析をすると言うなら、こんなどこでも買えるサプリは袋ごと全部進呈するけど、その結果が出るまでボクは諸君に付き合ったりはしないし、そんな義理もないよ? ボクには次に行かなきゃならないところがあって、時間も結構おしてるからね。そう言うと彼女は、鑑識なんか必要ない、自分が今ここでひとつ口に入れてみる、とボクをまっすぐ睨みつける。

 ひとつ食べてみせろ、じゃなくて、ひとつ食べてみせる、か。向こうもそれなりには考えているようだね。数百人単位の被害者を出して数十人もが命を落とした遊園地での事件のことを、念頭に置いているのかな。大した正義感だと思う。尊敬に値する。ボクはサプリメントの袋を開いて、彼女にお好きな一粒を選ばせてあげた。決死の表情で口に入れる彼女の目の前で、ボクもひょいと一粒食べてみせる。サプリメントなんか気休め程度だけど、仕事柄パソコンに向かう機会が多いからね、目にはそれなりにやさしくしなくちゃ。……で、このブルーベリーエキス入りのサプリメントに、何か『問題点』でも?

 悔しそうな表情の彼女達と別れて歩き出しながら、ボクは彼女達が犯した誤りについて考える。彼女達は何の根拠もなく、『次に使われる毒物も即効性のものだろう』と思い込んでしまったらしい。何故そんなイージーなミスをしてしまったのか、理解に苦しむ。サプリメントの袋を調べた判断は大当たりだったのに、さらに彼女は自らの生命を賭して毒見までしたと言うのに、これじゃあまったくの無駄死にだ。せっかく「成分分析してもらっても構わない」ってアドバイスまでしてやったと言うのに。今回用意した毒は半日ほど後に効果を発揮する遅効性のもの。パーティー会場において他愛もない会話のついでにターゲット達に無害な感じでつまませようと思っていたものに、口に入れた瞬間ぶっ倒れるような激烈な効果をもたらすものを入れるワケにはいかないものね。
 彼女には気の毒だけど、あのサプリメントが毒物だったと証明される頃にはボクはこの『枠』の中にはいない。作戦は他の奴が遂行することになる。この『枠』の中ではこれまで以上に仕事がやりにくくなるのだろうか? まあそれはボクが考えなきゃならないことじゃないか。
posted by 樋川春樹 at 19:35| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『とやかく』

 痛い。
 痛い。
 痛い。

 身体を折り曲げて激しく咳き込む。肋骨が砕けてしまいそうなぐらいの咳。どれほどの時間そうしていただろうか。急に込み上げた吐き気に口を押さえる暇もなく、がはッ、と何かを吐き出した。

 臓物を吐き出してしまったのだろうかと、有り得ない考えが一瞬脳裏を過ぎる。見下ろした床は真っ赤に染まっていた。なんだ。ただの血か。右手で唇を乱暴に拭う。咳が止まっている。

 ぜえぜえと荒い息をつきながら、咳は止まったけれど消えない痛みに呆然と立ち尽くす。どこが痛むのか何が原因なのか、皆目見当がつかない。咳き込んでいたときは身体の内部が痛むような気がしていたけれど、咳がおさまってみればそうではないような気もしてくる。身体の表面にどこか大きな傷が出来ているような。それにしては、先ほど吐いた血の他に血液が流れた様子はないし。

 痛い。
 痛い。

 崩れ落ちて倒れ込んで、あたり憚らぬ大声でわあわあと泣きわめいてしまいたかった。痛い痛い、痛くてたまらないと大騒ぎしながら地面をのた打ち回って、誰かに助けてもらいたかった。慰めてもらいたかった。けれどそれは不可能だ。ここには自分以外に誰もいないから。誰もついて来なくていい、その必要はないと言い切ったのは自分自身だった。自分の好きなようにやれるからその方が良いと思ってのことだ。横からとやかく口出しされるのは何より嫌いだったから、一人で出来ることは一人きりでやる方が良いと思ったのだ。実際、一人で成し遂げられるはずだったのに。

 痛い……。

 目もくらむほどの激痛が全身を責め苛んでいる。さっき吐き出したのが本当に内臓だったら良かった。もしかしたらそれで、この痛みが多少なりともマシになっていたかもしれないから。無論そんなことはないのだろうけど。どこにてのひらを当ててみても患部を押さえられているという実感がなく、どういう体勢をとれば激痛が緩和されるのかもわからないから、仕方なく棒立ちのまま。もう一度血を吐くだろうか。だったら迂闊に横にならない方がいい気がする。立っていた方が吐きやすいし、衣服を汚さずに済むだろう。横たわった状態でさっきみたいな吐き方をしたら、気管に入って酷いことになってしまうかもしれないし。

 一人で来たことに後悔はないけれど、こういうときに誰にも助けてもらえないのは少しだけ不便だとも思う。単独行動はとるなと何度も何度も繰り返されるのは、こういう場合に備えてのことなのだろうと、アタマではわかっていたけれど……一人で自由に動ける魅力を捨てる気にはなれなかった。だからこそ今こうして、しっぺ返しをくらっているのだろうけど。
posted by 樋川春樹 at 19:35| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『開花』

 見て見て、アレだよ、ここでもあの木が咲いてるよ。

 私の手をしっかりと握りしめて半ば引っ張るように歩きながら、弾んだ声をあげた彼が前方にある満開の桜を指し示す。

 あの木ってすごく人気があるんだよね。アレがいつ咲くかって、カイカヨソウ? とかいうのをわざわざニュースで流すんでしょう? 植物が咲いたり枯れたりするのをいちいちテレビでやるなんて、ここはずいぶん平和なんだねえ!

 欠片ほどの悪気もない口調で堂々と言い放ちながら、彼は薄桃色の花びらが舞い散る道へと足を踏み入れる。私の手をしっかりと掴んで離さないまま。

 でもここがそういう平和なトコで良かった、そのおかげでこうして一緒にオハナミに来られるんだもんね。おいら、戦ったり殺したりするのは何ともないけど、キケンな場所だと一緒にはいられないでしょ? だから、どっちかで言うなら平和なトコの方が好きかも知んない。

 能天気に物騒なコトを大声で言う彼を、苦笑してたしなめられる程度には私も一連の状況に慣れてきた。
 「今年」と言わず「ここで」という表現を用いるしかないこの生き方にも、あらゆる『枠』から外れた自分達の時間の流れに対する概念も……日を追うごとにそれまであった過去から乖離してゆく感覚、引き返せたハズだった地点をもうとうに越えてしまっている現状、なのに「戻りたい」とはこれっぽっちも考えていない自分。
 もともと人間ではない彼らと比べたときの方が、より「近い」と感じられるようになってきている。
posted by 樋川春樹 at 19:34| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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