2013年02月27日

【指令】第17週:華涼→樋川


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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『絵画』
『つんつん』
『トランプ』

・期限は2013年3月6日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年3月4日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 21:56| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"スナック菓子"

私の夫は兄の親友
三年ほど前に紹介されて
彼が私を好みだといってお付き合いが始まった

とにかくシャイで男兄弟ばかりだからか
あんまり女の子への接し方もうまくなくて
最初は不安だったり少し怖かったりしたけど

彼も一生懸命、慣れないながらも
私を大事にしてくれてるって知ってからは
一緒にいるのが楽しくなった

その彼がある日、兄に話があるという
しばらくすると
何かが崩れるような壊れるような
物がぶつかるような音が聞こえ出した
兄の叫ぶ声も一緒に

お前になんか大事な妹をやれるか!!
プロポーズのことくらい自分で考えろ!
俺は指輪のサイズくらいしか力になれんと言ったろうが!

え…?どういうこと?
兄の部屋の扉をノックするけど聞こえてない
そおっと開けると
扉にポテトチップスの袋が勢いよくぶつかった
開いてて中身もまだ入ってたから砕けて宙を舞う

お兄ちゃん!と強めに声をかけるととたんに固まった
ポテトチップスまみれで

あ、今の聞いてたか?
うん、聞こえちゃいましたけど…?

うわあああ!お前のせいだお前の!
元はといえばお前がぐずぐずしてるからいけないんだろうが!
取っ組み合いを始める彼と兄

扉をバンと大きく開いた
その音に二人はまた制止した
入り口に正座する
三つ指ついて
よろしくお願いしますと言って頭を下げた

こ、こち、こちらこそぉぉぉ!
ごちんっ!とすごい音がした
彼も正座して頭を勢いよく下げすぎて床に激突
そのあと三人で大笑い

彼の髪にたくさんついたポテトチップスを今でもよく覚えている
posted by 華涼紗乃 at 21:53| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"計算ミス"

強い女性に憧れる
スタイルもよく
まなざしも涼しく
いつも凛としている

彼女に魅かれたのは
そんな面を見たから
募る思いを抑えきれずに
友達の制止も振り切って告白した

彼女は珍しくうろたえて
…私なんかでいいのか?と聞いた
即答した
…あなたじゃなきゃ嫌なんです!

そういうとぼんっと顔が真っ赤になって
ぎこちなくうなづいてくれた

僕も彼女も付き合うのは初めてで
まだまだ手探りだけど
彼女は強いだけじゃなくて
二人でいると女の子らしくしてくれて
彼女として必死になってる
それがすごく可愛らしくて
そのギャップにハマって
ますます好きになっていく

すごく嬉しい計算ミス

ときどきどこかから
強い視線を感じるけど
それは受け流して

やっと照れずに繋げるようになった手を
きゅっと握るとはにかむ

これからも大事にしていこう
彼女もこの気持ちも何もかも
posted by 華涼紗乃 at 21:48| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"見取り図"

朝起きて歯磨きをしながらテレビをつけた

朝のニュースで最近騒がれていた
猟奇殺人の犯人逮捕を知らせていた
顔写真を見て驚き
危うく歯ブラシを落とすところだった

半年ほど前に来たお客さんだった

うちで扱う部屋の見取り図を
ネットで見て来店された
細い目の穏やかそうな青年だった

希望される部屋の
ほとんどが浴室が大きいところだった
普通は部屋のほうに重点を置くのにと妙に思った

浴室の換気扇の位置にもこだわっていたっけ
玄関側についているのは嫌だとか
出来れば外に人の通ることのない壁側に
ついているほうがいいだとか

女性だったらわかるけど
男性であのこだわりはないよな

あれはこのための場所を
探していたんだなと今ならわかる

犯人は何人も殺して
すべてバラバラにしていたのだから
posted by 華涼紗乃 at 21:36| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第17週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『美術館』
『中古品』
『りんご』


・期限は2013年3月6日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年3月4日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 03:53| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『キャップ』

 変装なんて必要ない、けれどたまには『気分』を優先するのも良いだろう。
 無駄な行為は好きじゃないけれど、それを人生から完全に閉め出せないのが人間らしさ。
 目深にかぶった黒いキャップ、某国の特殊機関の人間が着用するための公式のもので、その国で一般人が身に着けると処罰の対象になってしまうのだとか。
 いまどきのネットには何でもあるとは言え、わざわざそんなものを取り寄せる必要はないのに。これもまた、意味のない行動だ。
 余計な手順ばかり積み重ねて、迅速に辿り着くべき目的地からは遠回りをして。
 一連のそういった行為を以前ほど不快に思わなくなっているのは、そうすることに慣れたからか、あるいは本質に関わらない事柄をこそ愛する人間の心に自分自身が馴染んできたからか───。
 苦笑して、とりとめのない思考を打ち切る。
 与えられた使命を成すことだけを期待されている自分達が、人間らしいものの考え方に馴染んだからといって、どんな益があると言うのだろう。

 優しいあのひとはもしかしたら喜んでくれるかもしれない、けれど。
posted by 樋川春樹 at 03:49| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『たらふく』

 ひとの生命はいつ尽きるかわからないものだ。
 大抵の人間は漠然と数十年後、まだまだ先だろうと思っている。
 それが今日や明日ではないという保証はどこにも無いと言うのに。
 しかし、根拠もなくそう思い込んでいられるからこそ、ひとは絶望に打ちひしがれることなく生きてゆくことが出来る。
 いつか死ぬことを忘れていられるからこそ。

 一日の仕事を終え心身共にくたびれ果てて帰って来たとしても、ゆったりと風呂に入りさっぱりと清潔な部屋着に着替えて、上等ではなくとも美味いものをたらふく食べて温かな布団の中でぐっすりと眠れば、肉体の疲労も心についたひっかき傷もとりあえずは綺麗に消えて、次の日もまた起き上がって出かけてゆける。
 自分の身の上にこれから起こる生命の終わりも、これまでに起きた無数の理不尽で許せない事柄も、みんな他人事のように忘れていられるから、ひとは日々を平穏に暮らしてゆける。
posted by 樋川春樹 at 03:48| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『成果』

 何もかも、ずいぶんと面白い方向に、動くものだね。
 この『枠』の中では、誰もがこぞって、自ら不幸になるために突き進んでいるようだ。
 あらゆるものごとは迅速にこなさなければならない。要領の悪い者、怠けている者は非難の目を向けられる。
 過剰な迅速さが生み出した空白の時間には、休養ではなく新たな仕事を詰め込んで。皆が揃って、束の間の息抜きさえせずに働き続けている。
 それほどの勤勉さも、成果を出すこと無しには評価されないシステムになっているのには、驚くばかりだ。自らの寿命を削り取るような熱心さで何十時間もぶっ通しで働いても、目に見えるかたちで良い結果をあげられなければそれは誰にも認められない。
 過程に価値はなく、最終的に何を得られるかが全て。個人個人が「努力をした」そんなことには意味がなく、勝ち上がった一人だけが賞賛される。
 この『枠』の中では、誰もが今にも死にそうなくらいにくたびれ果てている。
 自分が良い暮らしを送ろうと思うなら、ライバルである他者とは迂闊に馴れ合えない。だからほとんどの人間が、上辺は仲良く振る舞うとしても本当は孤独で、満たされない想いをずっと抱えている。身体に多大な負担をかけて睡眠や食事の時間を削って労働しているから、顔色も悪くて見るからに不幸そうだ。
 なのに誰一人として、立ち止まって振り返ることが出来ない。これはおかしい、こんなことはやめるべきだと、声をあげることも出来ない。自分だけが落伍するワケにはいかないから、歩みを止めれば即座に脱落してしまう仕組みが、『枠』の中に完成しているから。
 面白い状況が、出来上がるものだね。
posted by 樋川春樹 at 03:46| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月20日

【指令】第16週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『成果』
『たらふく』
『キャップ』

・期限は2013年2月27日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年2月25日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 19:51| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"ごみ捨て場"

助けて、たすけて、タスケテ…

重い、動けない、もう一歩も
辛い、でも泣けない、涙なんて枯れた

ここは暗くて冷たくて

渇く、渇く、のどを掻き毟りたくなるほどに
付け焼刃に咳をしても、もう苦しいだけ

ほんの小さなひとかけら
言われて嫌だったこと
されて嫌だったこと
無理矢理やらされたこと
ストレス、ストレス、ストレス…

見ないように、気にしないように
傷つかないように全部流したつもりだったのに
気がつけば膨大な量になっていて
うずたかく積み上げられている

そこから染み出た嫌な液体は
澱のように泥のように心に巻きついて
冷やして固めて渇いてゆく

このまま砂で出来た城みたいに
風に吹かれて消えてしまえば楽なのに
そうはいかない

生きてる以上
生きていかなきゃいけなくて
生きてる以上
ごみはどんどん溜まっていくのだ

もうとっくに満足して
あとは不満だけが
増幅されていくだけなのに

手を伸ばしても
空さえ
ごみに阻まれて
もう少ししか見えない
posted by 華涼紗乃 at 19:45| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"合法"

法律なんて関係ない!なんて
甘いこと言ってるんだから

漢字も読めない、物も知らない
可愛いだけの若い子に
そうやすやすと
やられたりするもんですか

出し抜きたければ
もう少し人の見る目と
さまざまな経験をつんできなさいな

あ、そうそう「慰謝料」くらい
読めるようになっていてね

彼氏彼女なら合法よ
とったりとられたりはお好きになさいな
でも結婚は契約
婚姻届はそれだけ重いものなのよ

でも良かったわ
私はその重さに潰されそうで
そろそろ疲れていたから
厄介払いした上に
お金までもらえるなんて
さらに勝ち誇った小娘に
制裁を加えることが出来て
ますます愉快だわ

あの頼りないぼんくらにそろそろ連絡取ったらどう?
助けてくれるとはとても思えないけどね
posted by 華涼紗乃 at 19:45| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"イベント"

冬はイベントが多い
クリスマスにバレンタインにホワイトデー
寄り添うほうが暖かいから
自然とそうなったんだろうか?

最近はカップルだけのイベントではなくなって
みんなで集まってわいわい騒ぐことも出来るから
まだまだマシになったほうだ

なんだかんだと売れるので
テレビや雑誌やネットで
大々的に宣伝するのだろう

でも
もうそろそろうっとおしい
皆なんでそんなにテンションが高いんだ

俺が一人だからじゃないぞ

それなりに予定が入っている「こともたまにはある」し
チョコも「実物じゃなくてアイテムだけど」もらえるよ

それにしても皆楽しそうに生きている
人生のイベントを確実にクリアしていって
そんな気概はもう失せた

一発逆転のチャンスが
転がってこないもんかと
妄想くらいしかできない
ただただ、むなしいだけだ

将来なんて何がどうなるかわからない
ビジョンもない
ただゆるゆるとこのまま過ごして年を取るのだろう

イベントはたいてい
必要条件を満たさなきゃ
自分の身には起きないものだからな
posted by 華涼紗乃 at 19:43| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第16週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『見取り図』
『計算ミス』
『スナック菓子』


・期限は2013年2月27日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年2月25日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 02:06| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ショコラ』

 一本足の丸いテーブル、その上に並べられた四枚の白い皿の上。
 ほとんど隙間なくびっしりと、咲き誇る花のようにずらりと並ぶのは、とりどりの意匠を凝らしてつくられた、菓子とは思えぬ美しさを備えた菓子の数々。
 ひとの手でなされたとは信じられぬほどに繊細な細工を施されたそれらは、口に入れる行為が不遜と思えてしまうくらいにいっそ神々しさをすら感じさせる。

 チョコレート、なんて呼ぶのが申し訳ないみたい。チョコッて言ったら、イメージは板チョコだからね。気取って言うならショコラッて言うの? どっちにしても、食べるのがもったいないね。

 ユルい笑顔を浮かべて、館のあるじはそう言った。
 だから彼は−館の家事全般雑務一切を取り仕切る、生真面目な執事然とした黒髪の彼は−しっかりと毅然と、けれど押しつけがましくならないよう注意を払いながら、彼女に向かって言う。

 食べていただかなければ困ります、これだけの量をいつまでも飾っておくわけにはまいりません。それに何より、これはあなたへのバレンタインデーの贈り物なのですから。

 でも、これ全部私が食べるの? テーブルいっぱいのチョコレートのお菓子を、一人で? ねえ、みんなで分けて食べちゃいけないかな? 甘いもの、嫌いじゃないけど、さすがにこれはちょっと多すぎるよ。

 嬉しそうに、ほんの少しだけ照れたように、言葉をつなぐ彼女に。
 意図してきっぱりと首を横に振って、彼は慇懃な態度で言い渡す。

 いいえ、お一人で全て召し上がっていただきます。何故ならば、これらは全てあなた一人のためだけに用意させていただいたものなのですから。お茶の時間に食べ切れないとおっしゃるのでしたら、夕食も明日の朝食もチョコレート菓子になさいませ。

 黒髪の同居人の珍しい冗談に、館のあるじは一瞬だけかるく瞳を見開いて。
 それから、実に楽しそうに声をあげて笑い始める。

 わかった、わかったよ。命を賭ける覚悟でいただかせてもらうよ。せっかくの心尽くしだものね。でも、本当に食べてしまうのがもったいないぐらいに綺麗なショコラだね。

 『枠』の外側で生きていながら、それでもときには内側にいた頃と同じようなことをしたがる。
 する必要のないことを、本当はしたいとさえ思っていないかもしれないことを。
 多分、自分達は今でも人間で居続けたいと願っているのだ。
 もう戻れない一歩を踏み出してしまった自分を、自覚していながら、それでもなお。
posted by 樋川春樹 at 02:04| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『てっきり』

 ───死んだ。
 と、てっきりそう思った。

 酷い夢の中から急激に醒めるときのように急に目を開いて、それが早合点だったことを知る。
 こうして目覚めた以上は、ただ意識が途切れていただけのようだ。
 それなら、とほとんど無意識の動作で起き上がろうとして、自分の身体の大半が思い通りに動かせなくなっていることに気づいた。
 仰向けに転がった状態で、しばらくの間ごつごつと冷たい石の感触をただ背中に感じる。

 『木偶』は近頃、段違いに強くなった。それに、ちょっと途方も無いほどの勢いで数を増している。
 少し前までは『木偶』がどれだけいようとこちらは一人で何の問題もなく相手が出来た。殲滅までに大した時間もかからなかった。
 ところが今では、百にも満たない数の『木偶』に少々苦戦するような事態が度々起こるようになった。状況を終了させるまでに前とは比較にならないぐらい時間を費やさなければならなくなったし、稀にとは言え今まさにそうなっているように行動不能になるほどの傷を負わされさえするようになった。

 『枠』の中にはいたるところ『木偶』が溢れている。
 『木偶』とは、つまるところ愛することも愛されることもなかった魂のなれの果てだ。
 愛されたいと願いながらもついにかえりみられなかったもの。
 自らが愛することを最後までおぼえられなかったもの。
 誰からも必要とされず誰をも必要とせず、ほんとうの意味でのつながりを持てずに、宙に浮いてしまった存在。
 その欠片がひとつところに集まり、引き返せないほどに変質してしまったもの───それが『木偶』だ。
 昔、そのように説明されたことがある。

 ひととは異なる『狩人』である彼には詳しくはわからないが、『枠』の中はもう随分と不幸で物騒な場所になってしまったようだ。
 自分達がどれだけの数の『木偶』を壊しても、『枠』の内側が永遠に変わってしまったのであればそれはしても無駄な努力ということになるのかもしれない。
 それでも、『狩人』は与えられた使命のままに『木偶』を壊し続けるだけだ。
 全ての『木偶』が全ての『枠』から姿を消すまで───あるいは、もしかしたら、自分が『木偶』に壊される日が、来るまで。
posted by 樋川春樹 at 02:03| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『充実』

 わたしはもう十分に長いこと生きました。
 いろいろなことがありました。
 けして幸福なことばかりではなかったけれど。
 思い返す度に声をあげて泣き叫びたくなるぐらいに悲しいこと、つらいこともたくさんあったけれど。
 それでも、今こうして振り返ってみれば。
 充実した、素晴らしい人生であったと言い切れます。
 わたしの身に起こった何もかもが、今日この日のわたしをつくりあげてくれた。
 どれひとつ欠けてもわたしがわたしでなくなってしまう、全てが大切な記憶。
 だから、わたしは心の底から、何度でもこう言えるのです。
 もしも時間が巻き戻って、もう一度人生を生き直せるとしても、そっくりそのまま同じ日々を生きたいと思えるほどに、充実した……わたしにはもったいないほどの、素晴らしい人生でした。

 静かな口調で語る老女、穏やかで迷いのない微笑、深みのある声が部屋の中をゆるゆると流れてゆく。

 家族、恋人、友人のあらかたを、一人の人間が一生に一度遭遇すればそれはどうしようもない不運だと表現出来るほどの事故や災害で失い続けた彼女は、人生最後の日に、それでも優しく笑っていた。
 運命は、その生涯に渡って彼女から大事なものを奪い続けたというのに。
 それをことさら嘆いてみせることも、まして恨み言を口にすることもなく、彼女はただあらゆることを受容した笑顔で、かみさまのような笑顔で、自分の一生は素晴らしいものだったと、断言した。

 『引き金』を握った手を灰色のコートに隠して、窓の前に呆然と立ち尽くす私を、彼女はどのような存在ととらえただろうか。
 ようやく自分を連れに来た、遅刻癖のある死神と思ってくれたのか。
 あるいは、私こそが彼女を翻弄し続けた『神』であると───気づかれてしまっただろうか?
posted by 樋川春樹 at 02:03| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月13日

【指令】第15週:華涼→樋川

++++

ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『充実』
『てっきり』
『ショコラ』

・期限は2013年2月20日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年2月18日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 19:58| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"容疑者"

何にも悪いことはしていない
その思いは今でも変わらない

人を騙して何故いけない?
騙されるほうが悪いんだろう!
現に相手にもおりるチャンスはいくらでもあったはずだ
それを選ばなかったのは自己責任じゃないのかよ?!

昔からゲームは裏技ばかり使ってた
他にもテストとか提出物とか
少しでも楽に出来る方法を探して探して
今まで生きてきたんだ

人に危害を加えるのはいけない
自分だってやられたら痛い
それはわかる
だから一度もやっていない

ターゲットにはほとんど手を触れないし
怒鳴りつけたことさえない

仲間は言う
お前は失敗したんだよ、相手が悪すぎた
警察は言う
騙す意図があったのなら、これは罪だ

テレビで報道されている容疑者は
拘置所の中で頭を抱える
失敗したことはわかる
負けたこともわかるが
ここに閉じ込められるようなことなのかがわからない

ペナルティが途方もないことを誰も教えていないのだ
そこに想像がいかない
これから彼には相当なしっぺ返しが降りかかる

知らず知らずのうちに
人生そのものをチップに
ギャンブルしていたなんて

彼こそ、心底騙されてたのかもしれない
posted by 華涼紗乃 at 19:53| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"メニュー"

今朝は死ぬほど寒い
布団から出たくないこんな日なのに

起きろ!
掛け布団を引っぺがされた

半分だけ目を開けて声の主を確かめると
仁王立ちした姉さんの姿

人の部屋に勝手に入ってくんじゃねーよ!
朝っぱらから!布団返せ!
もう、朝だ!遅刻するぞ!
何だよ、もう…

ふらふらと起き上がりベッドに座ると
ぐいっと箱を押し付けられた
あ?
チョコだ、やる!
じゃあな!早く起きろよ!
部屋を出て行く姉さんの後姿
耳が真っ赤になっていた

箱を凝視して開けてみると
カップケーキのようなものが入っていた
思わずそれを持ったまま居間へ降りていく

あら、おはよう、貰ったのね
おはよう、うん、何これ?
今日はバレンタインでしょ?
フォンダンショコラよ、リクエストしてたじゃない

そういや数日前にバレンタインで
欲しいチョコのメニューを聞かれた
でもあれは彼氏に作るんじゃないのか?

彼だけでなくあんたにもあげろって言ったのよ
お母さんだけじゃ、味気ないでしょ

ふーん、ご丁寧にどうも

なんて言ったけど
じわじわ嬉しくなってきた
後で大事に食べよう

それで美味かったよって
さらっと言ってやるんだ
posted by 華涼紗乃 at 19:52| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"抜け道"

この世界に来たのは
結果的に正解だったと思う

来た時は
後悔し、悔しがり、懐かしんだものだが
それももう随分昔のことだ

奴隷として売られた僕は
今は奴隷を使う立場にある
料理人の元締め
奴隷の売買など
いろいろ手を広げている

何故この仕事をしたのかというと
楽しくて仕方ないからだ
世界の色が希望が絶望に変わる様が
顔色、態度、声色、しぐさ
すべてが僕にとって甘露である

僕が奴隷から這い上がれたのは
"抜け道"のおかげ
奴隷牢にはぱっと見はわからない
からくりが仕込んである
それを見つけて開けたものだけが
誰にも悟られずに外に出られる仕組み

現実の世界に染まっていたやつは
抜け出そうと考えもしない
または考えても長続きしない

だから奴隷は奴隷のままで終わることが多い
僕みたいなのは本当に稀なのだ

これからもこの世界でやっていく
現実よりもはるかに
手ごたえがあるここで

今日も酒が美味く飲めそうだ
posted by 華涼紗乃 at 19:51| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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