2012年12月26日

【指令】第9週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『探索』
『帰り道』
『アラーム』


・期限は2013年1月9日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年1月7日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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※来週は1週間お正月休みをいただきます。
 皆様よいお年をお過ごしください!
posted by 樋川春樹 at 21:59| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『カフェ』

 彼らは人間のように生きてはいないし、そもそも生命ですらないのだと言う。
 出会ってからわりと時間が経ったけれど、私にはまだそれがどういうことなのかよくわからない。
 何も知らない目で見ているぶんには本当に人間と見分けがつかないし、彼らが『狩人』であると認識しつつ接してみてもその違いはまるでわからない───普通の暮らしの中で接している限りは。

 日常から逸脱した場面で考えてみるならば、彼らは明らかに人間とは違う。
 刺されても斬られても撃たれても死ぬことはない───最初から生きていないのだから、死ぬワケがない───どんなに深く大きい傷を負っても、その傷口は見る間にふさがってしまう───自分で自分を修復する機能が備わっているのだと、彼らはこともなげに言う。

 彼らの人間ではない部分を何度目にしても、何も起こらない普通の暮らしに戻って来る度にそれを忘れてしまう。
 平穏な日常の中で共に過ごす彼らは、それぞれの性格を持ちそれぞれの考え方を持ちそれぞれに行動する、他の若者達と何も変わらない。

 私が用意したお昼ご飯を実に美味しそうに平らげて───『狩人』には食事を摂る必要がない、それどころか人間と同じ味覚が備わっているかどうかもよくわからない───満足そうな笑顔を見せて、『マスター』は料理の天才だし絵も上手だから、将来はどこか静かな町でおしゃれなカフェを開けばいい、手書きの文字にかわいいイラストが添えられたメニューなんかをつくって、そうしたら自分達はそのお店をよろこんで手伝うし、『マスター』は求めていた穏やかで落ち着いた暮らしが送れるでしょう? なんて提案してくれる彼らは───人間そのものにしか、私には見えなくて。
posted by 樋川春樹 at 21:54| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『こまごまと』

 ひとりの一生に一度だけ、人生を変える運命の『引き金』。
 そんな噂を耳にしたのは、どこでだったか。
 灰色のコートを着た『引き金』の持ち主が現れて、一度だけ人生を変えてくれる。
 曖昧な、不確かな、漠然とした、───その噂。

 現状、人生に不満はない。
 いつでも元気はつらつとしてるわけじゃないけれど大きな病気や怪我もしていないし、欲しいものが何でも手に入るほど裕福なわけじゃないけれど多額の負債を抱えて困窮しているわけでもない。
 満足ではないけれど、不満でもない。
 きっと、大多数の人々と同じ。
 何かいいことがあればいいなとは思うけど。
 劇的な変化を必要とするほどじゃない。

 それでも、考えるだけならと、考えてみてしまう。
 自分の一生が一度だけ変わるとしたら、どんな風に変わってほしいだろう。
 もっと幸せになりたい。
 でも、どんな風に?
 思いを巡らせてみても、なんだかとてもこまごまとした、くだらないことしか思いつかなくて、ちょっとだけ自分にがっかりする。

 こんな私には、そんな大層な『引き金』は必要ないみたい。
 でも。
 それなら、その『引き金』の持ち主は一体どんな理由があって、そんな不思議なものを手に入れたというのだろう?
 そして、どうしてその『引き金』を使って、自分自身ではなく他人の運命を変えて回っているのだろう?
posted by 樋川春樹 at 21:53| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『歓喜』

 高い高い樹の上から、その光景を見下ろしていた。
 その町の様子を。
 町が生まれるずっと前からそこにある樹の上から。
 誰にも知られることなく。
 地鳴りのような歓喜の声、それは世界を粉々にしてしまいそうなくらいによく響く。
 誰もがかたく握った拳を天に突き上げて、口々に様々な言葉を叫んでいる、抑え切れない喜びを表現している。
 誰彼構わず抱き合い、満面の笑みを浮かべている彼ら彼女らは、ひとりの人間の死をよろこんでいるのだ。
 つい先ほど、ひとりの王が民衆の手によって広場に引きずり出され、大きな刃物で首をはねられた。
 彼がほとばしらせた血のにおいは未だ濃くその場に漂っている。
 石畳を濡らした血液を踏みにじり、首を失った身体を無残に吊るして。
 自分達を圧迫し苦しく暗い生活を送ることを強いた王が倒れたことを、人々は心の底から祝っていた。
 高い高い樹の上から、その光景を見下ろしていた。
 町が生まれるずっと前から、人の暮らしとは関わりなくそこにある樹の上から。
 人間がいようといなかろうとまるで関係なく、そこにあり続ける樹の上から。
 彼ら彼女らはこう考えているのだろうか。
「悪い王様がいなくなったから、これで自分達はしあわせになれる」
 こう考えて、そこで考えることをやめているのだろうか。
 そう長くもない歴史の中で何度も何度も何度も何度も同じことを繰り返して、なのに今またそれをもう一度繰り返そうとしているのだろうか。
 自らの幸福を他人の手に委ねる限り、誰も本当には幸福にはなれないということを?
 いや、違う。
 この世界に生まれ落ちた時点で、もう誰も幸福になったりは出来ないということを。
posted by 樋川春樹 at 21:52| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第9週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『濃縮』
『よしんば』
『アクリル』

・期限は2013年1月9日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年1月7日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 20:09| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"時限爆弾"

準備は整った

もうここまで来たらどうしようもない
さんざん悩んで相当迷って
それで出した結論だから
あとは突き進むだけ

抜け殻みたいに生きてきた
生活がちゃんと安定していたし
このまま毎日普通に
朝が来て昼が来て夜が来てまた朝になって
そしていつか死ぬんだと思ってたけど

この生活を根底から
叩き壊さなきゃならなくなった
このまま抜け殻みたいに生きる方法も考えたけど

まだまだ時間がある
五体満足で健康な身体もある
やる気さえあればなんだって出来るのだ
地球の裏側にだって行こうと思えばいけるし
今から政治家にだってなれるかもしれない

そんな可能性を潰して
こんな変わり映えのしない安定にすがってていいのか
しかも手ひどい裏切りを受け続けてまで

一つ一つ着実に準備は整えた
ものすごいストレスで何度も吐いたけど
それも仕方のないこと

希望に向かって打ち上げる爆弾
あとは導火線に火をつけるだけ
さようなら、安定した生活

さようなら、あなた

posted by 華涼紗乃 at 19:58| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"寝不足"

私には尊敬する上司がいる
管理職は男性ばかりな私の会社の中で
唯一、女性で役職についている

すらっと背が高くて抜群のスタイル
いつもスタイリッシュなスーツを着こなし
髪の一筋までも油断なく
きりっとした表情

近づきがたく思えるのだけど
所々に見せる笑顔がとても華やか
いつもこんな女性になれたらなあと思う

そんな上司が今日はとても眠そうだ
あくびをかみ殺しているなんて
なかなかレアな表情だけど
一体どうしたんだろう?

ふと気づくとそんな上司を
ニヤニヤと見つめている男性の同僚がいた

上司は美人だから
よく見つめている男性社員はいるけれど
どれも憧れの視線という感じで
こんなに笑いをかみ殺すような表情で見る人などいない
それにその同僚はいつもは上司に興味がなさそうなのに

上司が同僚の視線に気がついた
ばっちり目線が合う

その瞬間、すべてがわかった気がした

視線と表情だけの会話
それも数十秒のこと
なのに何よりも雄弁に二人の関係を物語っていた

きっと二人は昨夜一緒にいて
寝不足になるほどの何かがあったのだろう

驚きとつい想像してしまったので
頭が混乱してぼんっと顔が熱くなった

こんなんじゃ仕事にならない
二人の顔もまともに見れそうもない
ちょっと涼んで一息入れよう
posted by 華涼紗乃 at 19:58| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"喫煙所"

煙草は身体に毒なんて百も承知である

でも吸う習慣がついてしまうと
やっぱりいろいろ便利なのだ

ある友人は二人目の彼女を作るときは
煙草をすわない人に決めているようだ
喫煙所に逃げ込んで電話やメールで
本命をごまかせるから
非喫煙者はあんなに煙たいところ
めったに入ってこないしな

それに「煙草を吸う姿」は非喫煙者から見ると
ある一種の憧れに近いようで
わりと女性に好まれる…らしい

テンション高く煙草はいいぞと後輩に語っていたが
そんな友人はもう何度も痛い目を見ているので
後輩にはあいつの言うことは話半分でと釘を刺しておいた

友人とは違うが煙草はいいと俺も思う
誰かと一緒のときふと一人になりたくなることがある
何となくリセットが必要なときが
今の世の中は喫煙者には厳しいから
喫煙所がそこから外れるいい口実

煙草を取り出し火をつけて口をつける
ふうっと煙を吐き出して
アクリルと白い煙の別空間で
つかの間の一人の時間を楽しむんだ
posted by 華涼紗乃 at 19:57| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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