2012年12月12日

【指令】第7週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『憤怒』
『たびたび』
『コットン』

・期限は2012年12月19日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月17日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 19:25| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"どしゃ降り"

傘を持ってくるのを忘れた

ビルのエントランスから
ガラス越しに激しい雨が降っているのが見える
まだ午後三時なのに真っ暗で
車が跳ね上げる水しぶきが大きい
傘がなければものの数秒で
下着までぐっしょりだろう

コンビニまでは走っても5分はかかりそうだ

普通なら少し様子を見てみようとか
誰かに迎えに来てもらおうとか
タクシーを呼ぶとか
いろいろ考えるのだろうけど

あいにく私は
時間の定まらない待ち時間は嫌いだし
こんな時間にフリーの友人も家族もいない
そしてお金もない

なので濡れて帰るという選択肢を普通に選ぶ

まずは濡れて困るものを
できるだけ耐水性のありそうなものでぐるぐる巻きにして
鞄の中に入れなおす

そして雨など感じないかのような顔をして出て行く
走るのは嫌い、だから普通に歩く

外に出ると待ってましたと襲い掛かってきた
激しい風と雨

冷たい、雨粒が身体にあたる感触がうっとおしい
首筋が濡れて冷えていく
髪が濡れて顔に張り付く
眼鏡はあっという間に水滴で前が見えなくなった

外国人は傘をささないというが
正気の沙汰ではない
ああ、傘ってなんてすばらしいものだ
絶対、これから傘だけは持ち歩こう

その後、
傘をさしかけてくれる人がいたとか
翌日風邪を引いたというイベントはなかったけど
とりあえず新しい折り畳み傘が私の鞄に増えた

posted by 華涼紗乃 at 19:20| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"研究所"

パチリとスイッチを入れると
そこは黒くて四角い機械だらけの空間
何の音もせず
何のにおいもしない
一見すると倉庫のような部屋だ

部屋の中央に立ってインカムをセット
深呼吸をして一言
「起動」とつぶやく

そのとたんに
あらゆるインジケーターが点灯・点滅
モーターが回り始めた

天井付近に設置してある
6台の小さめのディスプレイには
若い女性がそれぞれ6人映し出された

画面には分割されて
彼女たちの個人情報
彼女たちのSNSサイト
彼女たちが現在いる場所の防犯カメラ映像
彼女たちの部屋の画像が
そこにあるのが当然のように表示されている

僕の研究のために若い女性の動向を調査している
データ収集と実益を兼ねて
ストーキングの手助けや
素行、浮気調査も同時に行っている

今日も誰一人、気づかれることなく
無事にデータは集め終わっているようだ
もっとも今まで一人として
調査終了まで気づいた人はいなかったのだけど

データを確認すると一人の調査対象に動きがあったようだ
早速クライアントに回線を繋ぐと
指示とすぐに振込があった

彼女の誰にも見られたくない部分を
記録から切り取って動画サイトにアップする
アドレスは複数のSNSアカウントでネット上にばら撒いた

さて彼女の身近に届くまでどのくらいかかるかな

ここから一歩も動かずに人を一人破滅させるのに
いったいどれくらいの時間が必要か
どのルートで情報が届くか監視する

日本ではほぼすべて障害や問題はクリアした
今度は海外への進出を試みてみよう

幸い軍資金は尽きる心配がなさそうだ
posted by 華涼紗乃 at 19:19| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"設計図"

君を見ていると
白い紙に濃紺の線が何本も引かれている
整然とした設計図を思い出す

自分の性格、容姿、能力
すべてを熟知した上で書かれた
最大限面白い人生を送るための設計図

普通は
自分のことを自分で知ることすら難しい
設計図なんて夢のまた夢

時間に流され
周りに促され
何となく漂うのが人生で
みんなそういう生き方でうまくいっていた

けど最近はそうでもない
誰でも大人になれば出来ると思っていたことが
気がつけば何ひとつ自分にはないことが
たくさんたくさんあるのだ

君は言う
だからデザインするのだと
何かを成し遂げるには
自分で動き出さなきゃ始まらないものなんだと

君が作った素敵なお家の中で
君の小さな子どもと遊んで
君が作ってくれたお菓子を食べて
君が創った歌を聞く
来週には海外に行きそのまま永住するそうだ

そんな君を見ているだけで
何でもかなうんだと思えるよ
自分でも出来るんだと勘違いできる
その淡い希望だけで
私はまた流れていけそうな気がする
posted by 華涼紗乃 at 19:18| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第7週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『コンサート』
『ペットボトル』
『シュレッダー』


・期限は2012年12月19日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月17日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 12:17| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『セーター』

 今年の夏は長く続いた。
 カレンダーの上ではもう秋と呼んでもおかしくないような時期でもエアコンが必要なぐらいに暑かった。
 もしかしてもうこのまま冬が来ないんじゃないだろうかなんて馬鹿なことを考えてしまったほどに。
 けれどもちろんそんなことはなくて、短い秋の後にはちゃんと冬がやって来た。
 まるで夏の暑さに張り合っているかのように、厳しく寒い冬が。
 各地で記録的な大雪が観測されるような気候が続き、そんな中連日屋外で活動を続けるボク達を気遣って、『マスター』がひとりひとりにセーターを編んでくれた。
 ボク達は基本的に人間と同じ姿形をしているけれど、あくまで外見を模しているだけで人間ではない。
 ボク達の感覚も人間とは大幅に異なっていて、暑さ寒さや痛みといったマイナスの感覚にはかなりの耐性を持っている。
 凍死者が出るほどの極寒の中でも防寒具を身に着けずに通常と変わらず行動出来る。
 だから実用的な意味合いで言えばセーターは必要ないのだけれど、それが『マスター』の用意してくれたものであれば話は別だ。しかも手編みときては着用しないなんて選択肢は有り得ない。

「……だからおマエの気持ちも十分よくわかるんだけど、さすがにシゴトのときは別の服着て来ようよ。潜入任務でもないのにそんなラフな格好して来られるとこっちの気まで抜けるって言うかさぁ……」
「あッ、よく考えたらこのままだと返り血とかで大切なセーターが汚れちゃうよね? ちょっと待ってて、上にレインコートとか羽織ってくるから!」
「そこを問題にしてるんじゃないよ!」
posted by 樋川春樹 at 12:15| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ろくに』

 この街で一番綺麗な夕焼けが見られる丘の上。
 今は誰も住んでいない、日の当たらないアパートの一室。

 愛されたい必要とされたいと強く願いながらついにそれを叶えられなかったもの達、誰からもかえりみられず生きていること自体をろくに認められてこなかった存在の残滓が、時間が経つごとにゆっくりゆっくりとこごってゆく。

 ソレは普通の人間の寿命を遙かに上回るほどに長い長い時間をかけて−ときには同様のもの達と合流し融合して−気の遠くなるような時間の果てに、『木偶』へと姿を変える。

 それは、世界という『枠』を空虚に喰い荒らす存在。
 何もかも、あらゆるすべてを無に帰し、『枠』を破壊してしまうものども。
 ひとに似た姿を持ちながら、もはやひとではなく、ひとであった頃の感情も記憶もない、からっぽの人形達。
posted by 樋川春樹 at 12:14| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『香水』

 甘いにおい。
 とてもとても甘いにおい。

 長い間鼻の奥に残る、顔がかゆくなってしまうような、強いにおい。

 胸がぎゅっとなるぐらいに懐かしくて。
 でも同時にお腹の底が冷たくなるほどに、悲しい。

 強く、強く強く記憶に焼きついたにおい。
 忘れようとしても忘れられない。

 それは、おかあさんが着けていた香水のにおいだ。
 甘い甘いにおいがあの頃の記憶を細かなところまで呼び戻す。

 おかあさんは派手で綺麗なお洋服を着ていた。
 おかあさんは丁寧にお化粧をしていた。
 おかあさんは全身からこの香水のにおいを振りまいていて。
 おかあさんはいつも明け方近くなるまで帰って来ない。

 ひとりぼっちの家で、冷たい暗さの中で、わたしはいつもおかあさんを待っている。

 ずっとずっと、ひとりで待っている。
posted by 樋川春樹 at 12:13| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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