2012年12月04日

『写真』

 予想通りと言えば予想通りの場所から、その写真は見つかった。
 筆圧の高い文字でぎっしりと埋め尽くされたノートの間から。
 はらりと床に落ちた大判の写真を拾い上げる前に、黒々とページを埋め尽くす文字が記した内容をざっと確かめる。
 何人もの個人名を挙げての糾弾、怨嗟、憎悪のフレーズ。
 このノートが唯一の感情の捌け口だったのだろうということは容易に理解出来る。
 散らかった机の上に閉じたノートを戻して、足元にある写真を拾い上げる。
 紺色の学生服をきっちりと身に着けた少年少女が、紺色のスーツをかっちりと着込んだ女性を中心にして、きりりと引き締まった表情でカメラを見つめている、ありふれたクラス写真。
 ただし、そこに写る生徒と教師の顔はひとつ残らずペンの先か何か鋭いもので突き刺されて破られていて、どれが誰なのかを判別することは困難になっている。
 ぼろぼろになっている写真を数秒間眺めていたら、無意識に重苦しいため息がこぼれた。

「殺したい相手が多すぎたみたいだね。ちょっと欲張り過ぎだ。つりあわない願いを持つから、こういうことになる」

 さっきのため息は同情からでも憐憫からでもない、「心底呆れた」という感情のあらわれだ。
 ひとりの一生にたった一度だけ運命を変えられる道具、そのまがい物。
 『彼』はその扱い方を誤った。
 自分を酷い目に遭わせる全てのものに対する復讐を彼は望み、恐らくはこの世からの抹殺を願い───しかし彼が手に入れた道具はニセモノだった。
 ニセモノはニセモノらしく、歪んだかたちで彼の願いを叶える。
 すなわち、復讐の対象ではなく『彼』自身をこの世から退場させることで、彼が望んだ平穏を彼に与えたのだ。『死』という静寂の中の。

 気の毒だとはもちろん思わないし、だからと言って面倒だとも思わない。
 自分がなすべきは、一度使われて壊れてしまったまがい物の道具を回収して、その出所を探ること。
 一般市民として平凡に暮らすタダの学生である『彼』がどういうルートでそれを手に入れたのか、その使い方を知ったのか───一体どういう存在が普通の暮らしを営む普通の人々にそんなものを使うよう仕向けているのか?

 ここがうまくとっかかりになればいいんだけど。
 でもまあここがダメでも、他に似た事件は結構起こっている。
 こちらには時間はいくらでもあるし、ぶっちゃけそれでこの『枠』がひとつ壊れても何の不都合もない。

 ……いや、犠牲が増えれば増えるほど『マスター』は悲しむし、自分達がその自体を食い止められないことをひどく気に病むだろう。
 とするとそれは、非常に危惧すべき事態だ。
 ただ『マスター』のためだけに、自分は自分のなすべきことを早急に成し遂げなければならない。
posted by 樋川春樹 at 21:41| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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