2012年12月12日

【指令】第7週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『コンサート』
『ペットボトル』
『シュレッダー』


・期限は2012年12月19日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月17日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 12:17| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『セーター』

 今年の夏は長く続いた。
 カレンダーの上ではもう秋と呼んでもおかしくないような時期でもエアコンが必要なぐらいに暑かった。
 もしかしてもうこのまま冬が来ないんじゃないだろうかなんて馬鹿なことを考えてしまったほどに。
 けれどもちろんそんなことはなくて、短い秋の後にはちゃんと冬がやって来た。
 まるで夏の暑さに張り合っているかのように、厳しく寒い冬が。
 各地で記録的な大雪が観測されるような気候が続き、そんな中連日屋外で活動を続けるボク達を気遣って、『マスター』がひとりひとりにセーターを編んでくれた。
 ボク達は基本的に人間と同じ姿形をしているけれど、あくまで外見を模しているだけで人間ではない。
 ボク達の感覚も人間とは大幅に異なっていて、暑さ寒さや痛みといったマイナスの感覚にはかなりの耐性を持っている。
 凍死者が出るほどの極寒の中でも防寒具を身に着けずに通常と変わらず行動出来る。
 だから実用的な意味合いで言えばセーターは必要ないのだけれど、それが『マスター』の用意してくれたものであれば話は別だ。しかも手編みときては着用しないなんて選択肢は有り得ない。

「……だからおマエの気持ちも十分よくわかるんだけど、さすがにシゴトのときは別の服着て来ようよ。潜入任務でもないのにそんなラフな格好して来られるとこっちの気まで抜けるって言うかさぁ……」
「あッ、よく考えたらこのままだと返り血とかで大切なセーターが汚れちゃうよね? ちょっと待ってて、上にレインコートとか羽織ってくるから!」
「そこを問題にしてるんじゃないよ!」
posted by 樋川春樹 at 12:15| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ろくに』

 この街で一番綺麗な夕焼けが見られる丘の上。
 今は誰も住んでいない、日の当たらないアパートの一室。

 愛されたい必要とされたいと強く願いながらついにそれを叶えられなかったもの達、誰からもかえりみられず生きていること自体をろくに認められてこなかった存在の残滓が、時間が経つごとにゆっくりゆっくりとこごってゆく。

 ソレは普通の人間の寿命を遙かに上回るほどに長い長い時間をかけて−ときには同様のもの達と合流し融合して−気の遠くなるような時間の果てに、『木偶』へと姿を変える。

 それは、世界という『枠』を空虚に喰い荒らす存在。
 何もかも、あらゆるすべてを無に帰し、『枠』を破壊してしまうものども。
 ひとに似た姿を持ちながら、もはやひとではなく、ひとであった頃の感情も記憶もない、からっぽの人形達。
posted by 樋川春樹 at 12:14| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『香水』

 甘いにおい。
 とてもとても甘いにおい。

 長い間鼻の奥に残る、顔がかゆくなってしまうような、強いにおい。

 胸がぎゅっとなるぐらいに懐かしくて。
 でも同時にお腹の底が冷たくなるほどに、悲しい。

 強く、強く強く記憶に焼きついたにおい。
 忘れようとしても忘れられない。

 それは、おかあさんが着けていた香水のにおいだ。
 甘い甘いにおいがあの頃の記憶を細かなところまで呼び戻す。

 おかあさんは派手で綺麗なお洋服を着ていた。
 おかあさんは丁寧にお化粧をしていた。
 おかあさんは全身からこの香水のにおいを振りまいていて。
 おかあさんはいつも明け方近くなるまで帰って来ない。

 ひとりぼっちの家で、冷たい暗さの中で、わたしはいつもおかあさんを待っている。

 ずっとずっと、ひとりで待っている。
posted by 樋川春樹 at 12:13| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月05日

【指令】第6週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『設計図』
『研究所』
『どしゃ降り』


・期限は2012年12月12日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月10日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 23:34| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『オレンジ』


あめは

ふっていますか


つめたいあめ

しとしとと
せかいをぬらす

つめたい

ふゆのあめ


あめは

ふっているのでしょうか



ふしぎです

ゆうひはもえるようなあかで
そらにしずんでゆくのに

つめたいつめたいあめが

からだをぬらしている

めのまえはいちめんのオレンジ
うつくしいゆうやけ

なのにつめたいふゆのあめが

ふりそそいでくるのです

たえまなく


おそろしいほどにきれいなゆうぐれの
なかで

うごかないわたしの
からだに

つめたいあめが
しとしとと

とぎれることなく


ああ

ここはとてもさむいのに

ゆうやけいろにそまったせかいは

きれいで

とてもきれいで


ここはとてもくらいのに

もえるようなゆうひが

さいごに

さいごにそらをみあげた

あのひの
そのままに


そのままに
posted by 樋川春樹 at 21:45| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第6週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『香水』
『ろくに』
『セーター』

・期限は2012年12月12日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月10日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 19:16| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"待ち伏せ"

姉ちゃんを待ち伏せてみた

特に意味はない
姉ちゃんの学校は俺の通学路の途中にあるから
ときどき校門で待ってる

メールで一報
すれ違いになっちゃ時間を無駄にするから

いつもは
「わかった、すぐ行く」とか
「用事で遅くなるから先に帰って」とかくる

メールの着信音がした
さて、どうかな
「かかかかか、かえれ!」
…姉ちゃん、メールでどもれるってすごいね
ため息をついてにやりと笑う
「嫌だ」
ソッコウ送ってやった

校門から校舎をみた
こちらを見ている姉の姿が窓にあるはずだ
俺が帰るかどうか見てなくちゃ心配なはず

三階右から三番目の教室
…べったり張り付く姉の姿が見えた
そこから良く見えるように体勢を変える

しっしと追い払うような身振りをする姉に
にっこり笑ってひらひらと手を振る

今日こそは面拝ませてもらおう
弟としては当然知っておくべきだからな
posted by 華涼紗乃 at 19:04| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"半信半疑"

体調が悪いといつも連絡がある
律儀に律儀に毎日決まった時間に

その電話を私がとることはないけれど
決まった時間にいつも鳴るから覚えてしまった

一日、一週間、一ヶ月…
そうやって過ぎていった
指を折って数えると
もう半年くらいになる

そんなに身体の調子が悪いと入院ものだと思う
それかこんなことをやっている場合ではない
今すぐ病院に行って適切な治療を受けるべき

何よりたまに姿を見たときは
実に元気そうに笑っているのだ
どこかに出かけた話なんかして

最初は私も心配したけれど
少しずつ疑いだす
それはやがて信じる割合を抜いて
半分になり
もう今は信じてるフリをするだけになってしまった

大型連休が明けて姿を見たけど
また大型連休に入ってしまったらしい

次はいつ姿を見られるのやら
やっと楽になれると思ったけれど

まだまだ先は長そうだ
とっくの昔に放棄して
適当にやってるけど

それでも落胆はするんだよ
本当にひどい落胆を
全然信じていなくても、ね
posted by 華涼紗乃 at 19:03| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"吸血鬼"

家に帰れば迎えてくれる
ふわふわの白い毛に覆われた動物
猫に似ているがそうではなく
猫耳の位置に小さな丸っこくて硬い角が2本

玄関で靴を脱いでいる僕の前で
ぷかりとあくびをする
口の中には可愛い外見からは想像できないほど
鋭く長い2本の牙

そう、コイツは吸血鬼、僕のペット
僕の血がコイツの食事
血液以外は何も摂取しない
僕の血で出来ているといっても過言ではないから
僕の分身といっていいかもしれない

前脚でポンと僕の背中を叩く
はいはい、ご飯だね、ちょっと待って

吸血鬼はフィクションだと信じられてきたけど
本当はどこかにいるらしい
コイツらはその改良版なのだそうだ
一人の人間の血液のみを栄養源とするため
その血液が悪いものだと
コイツの発育や体調も当然悪くなる

自分の健康管理が自分だけでなく
コイツにも影響してしまうわけだ
そうすると不思議なもので
暴飲暴食を繰り返していたり
ヘビースモーカーだったりしても
ぴたりとやめ健康に気をつけるようになるという

もっとも自分をいじめて
コイツらを苦しめる倒錯者もいるみたいだが

ともあれ食事だ
今日も有機野菜をたくさん使った
スープを飲まなくちゃ

シャツを肘までまくって
手のひらを上に向けて手首の内側を見せた
目をきらりと輝かせカプリと噛み付く

ほんと、美味そうに飲むんだな
背中を撫でるこの瞬間が僕の至福のひととき
posted by 華涼紗乃 at 19:02| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『ただでさえ』

 前後左右、どちらに顔を向けても視界いっぱいに人の波が飛び込んでくる。
 幼い子どもを連れた若い夫婦や、若者同士のグループが多い。
 誰もが笑顔で、楽しそうに隣にいる誰かと会話している。
 ストリートの随所に立てられたスピーカーからは賑やかなBGMが絶え間なく流れている。
 様々な音が渾然一体となってとても騒々しい。

 うるさくて不快だけれど、ここから離れるわけにはいかない。
 この混雑の中でしなければならないことがある。
 それをすることで一体何が起こるのか、自分のしたことがどう影響してゆくのか、わからないけれどしなければならないこと。
 全ての行動に意味を求め、何もかもを理解したがる人間には、自分がこなしているような役目は耐えられないのかもしれない。
 自分がどの作業の続きをしているのか知らされず、自分の成果がどこへ繋がってゆくのか、最終的にどういった結果をもたらしているのかも知らされない、完全に断片でしかない役割。

 今日のような喧騒の中でいつ終わるとも知れない待機を強いられるような状況も、意味づけの毒に狂った人間の脳にとっては多大なストレスになるのだろう。
 自分が不快だと思うのはあくまで現状に対する評価の一種であって、そのことに精神的な負担を感じたりは特にしない。
 まがいものの生命に宿ったかりそめの感情は、人間を正確に模して『枠』の中で活動するのに都合が良いようにするためにあるものだから。

 それにしても人が多い。
 今日は天気も良いし気温もちょうどいい。
 昼過ぎからこの近くに有名アーティストがやって来てコンサートをすることになっている。
 様々な条件が組み合わさって、ただでさえ人出が多い祭日を一層賑やかなものにしているようだ。
posted by 樋川春樹 at 00:43| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月04日

『写真』

 予想通りと言えば予想通りの場所から、その写真は見つかった。
 筆圧の高い文字でぎっしりと埋め尽くされたノートの間から。
 はらりと床に落ちた大判の写真を拾い上げる前に、黒々とページを埋め尽くす文字が記した内容をざっと確かめる。
 何人もの個人名を挙げての糾弾、怨嗟、憎悪のフレーズ。
 このノートが唯一の感情の捌け口だったのだろうということは容易に理解出来る。
 散らかった机の上に閉じたノートを戻して、足元にある写真を拾い上げる。
 紺色の学生服をきっちりと身に着けた少年少女が、紺色のスーツをかっちりと着込んだ女性を中心にして、きりりと引き締まった表情でカメラを見つめている、ありふれたクラス写真。
 ただし、そこに写る生徒と教師の顔はひとつ残らずペンの先か何か鋭いもので突き刺されて破られていて、どれが誰なのかを判別することは困難になっている。
 ぼろぼろになっている写真を数秒間眺めていたら、無意識に重苦しいため息がこぼれた。

「殺したい相手が多すぎたみたいだね。ちょっと欲張り過ぎだ。つりあわない願いを持つから、こういうことになる」

 さっきのため息は同情からでも憐憫からでもない、「心底呆れた」という感情のあらわれだ。
 ひとりの一生にたった一度だけ運命を変えられる道具、そのまがい物。
 『彼』はその扱い方を誤った。
 自分を酷い目に遭わせる全てのものに対する復讐を彼は望み、恐らくはこの世からの抹殺を願い───しかし彼が手に入れた道具はニセモノだった。
 ニセモノはニセモノらしく、歪んだかたちで彼の願いを叶える。
 すなわち、復讐の対象ではなく『彼』自身をこの世から退場させることで、彼が望んだ平穏を彼に与えたのだ。『死』という静寂の中の。

 気の毒だとはもちろん思わないし、だからと言って面倒だとも思わない。
 自分がなすべきは、一度使われて壊れてしまったまがい物の道具を回収して、その出所を探ること。
 一般市民として平凡に暮らすタダの学生である『彼』がどういうルートでそれを手に入れたのか、その使い方を知ったのか───一体どういう存在が普通の暮らしを営む普通の人々にそんなものを使うよう仕向けているのか?

 ここがうまくとっかかりになればいいんだけど。
 でもまあここがダメでも、他に似た事件は結構起こっている。
 こちらには時間はいくらでもあるし、ぶっちゃけそれでこの『枠』がひとつ壊れても何の不都合もない。

 ……いや、犠牲が増えれば増えるほど『マスター』は悲しむし、自分達がその自体を食い止められないことをひどく気に病むだろう。
 とするとそれは、非常に危惧すべき事態だ。
 ただ『マスター』のためだけに、自分は自分のなすべきことを早急に成し遂げなければならない。
posted by 樋川春樹 at 21:41| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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