2012年12月26日

【指令】第9週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『探索』
『帰り道』
『アラーム』


・期限は2013年1月9日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年1月7日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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※来週は1週間お正月休みをいただきます。
 皆様よいお年をお過ごしください!
posted by 樋川春樹 at 21:59| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『カフェ』

 彼らは人間のように生きてはいないし、そもそも生命ですらないのだと言う。
 出会ってからわりと時間が経ったけれど、私にはまだそれがどういうことなのかよくわからない。
 何も知らない目で見ているぶんには本当に人間と見分けがつかないし、彼らが『狩人』であると認識しつつ接してみてもその違いはまるでわからない───普通の暮らしの中で接している限りは。

 日常から逸脱した場面で考えてみるならば、彼らは明らかに人間とは違う。
 刺されても斬られても撃たれても死ぬことはない───最初から生きていないのだから、死ぬワケがない───どんなに深く大きい傷を負っても、その傷口は見る間にふさがってしまう───自分で自分を修復する機能が備わっているのだと、彼らはこともなげに言う。

 彼らの人間ではない部分を何度目にしても、何も起こらない普通の暮らしに戻って来る度にそれを忘れてしまう。
 平穏な日常の中で共に過ごす彼らは、それぞれの性格を持ちそれぞれの考え方を持ちそれぞれに行動する、他の若者達と何も変わらない。

 私が用意したお昼ご飯を実に美味しそうに平らげて───『狩人』には食事を摂る必要がない、それどころか人間と同じ味覚が備わっているかどうかもよくわからない───満足そうな笑顔を見せて、『マスター』は料理の天才だし絵も上手だから、将来はどこか静かな町でおしゃれなカフェを開けばいい、手書きの文字にかわいいイラストが添えられたメニューなんかをつくって、そうしたら自分達はそのお店をよろこんで手伝うし、『マスター』は求めていた穏やかで落ち着いた暮らしが送れるでしょう? なんて提案してくれる彼らは───人間そのものにしか、私には見えなくて。
posted by 樋川春樹 at 21:54| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『こまごまと』

 ひとりの一生に一度だけ、人生を変える運命の『引き金』。
 そんな噂を耳にしたのは、どこでだったか。
 灰色のコートを着た『引き金』の持ち主が現れて、一度だけ人生を変えてくれる。
 曖昧な、不確かな、漠然とした、───その噂。

 現状、人生に不満はない。
 いつでも元気はつらつとしてるわけじゃないけれど大きな病気や怪我もしていないし、欲しいものが何でも手に入るほど裕福なわけじゃないけれど多額の負債を抱えて困窮しているわけでもない。
 満足ではないけれど、不満でもない。
 きっと、大多数の人々と同じ。
 何かいいことがあればいいなとは思うけど。
 劇的な変化を必要とするほどじゃない。

 それでも、考えるだけならと、考えてみてしまう。
 自分の一生が一度だけ変わるとしたら、どんな風に変わってほしいだろう。
 もっと幸せになりたい。
 でも、どんな風に?
 思いを巡らせてみても、なんだかとてもこまごまとした、くだらないことしか思いつかなくて、ちょっとだけ自分にがっかりする。

 こんな私には、そんな大層な『引き金』は必要ないみたい。
 でも。
 それなら、その『引き金』の持ち主は一体どんな理由があって、そんな不思議なものを手に入れたというのだろう?
 そして、どうしてその『引き金』を使って、自分自身ではなく他人の運命を変えて回っているのだろう?
posted by 樋川春樹 at 21:53| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『歓喜』

 高い高い樹の上から、その光景を見下ろしていた。
 その町の様子を。
 町が生まれるずっと前からそこにある樹の上から。
 誰にも知られることなく。
 地鳴りのような歓喜の声、それは世界を粉々にしてしまいそうなくらいによく響く。
 誰もがかたく握った拳を天に突き上げて、口々に様々な言葉を叫んでいる、抑え切れない喜びを表現している。
 誰彼構わず抱き合い、満面の笑みを浮かべている彼ら彼女らは、ひとりの人間の死をよろこんでいるのだ。
 つい先ほど、ひとりの王が民衆の手によって広場に引きずり出され、大きな刃物で首をはねられた。
 彼がほとばしらせた血のにおいは未だ濃くその場に漂っている。
 石畳を濡らした血液を踏みにじり、首を失った身体を無残に吊るして。
 自分達を圧迫し苦しく暗い生活を送ることを強いた王が倒れたことを、人々は心の底から祝っていた。
 高い高い樹の上から、その光景を見下ろしていた。
 町が生まれるずっと前から、人の暮らしとは関わりなくそこにある樹の上から。
 人間がいようといなかろうとまるで関係なく、そこにあり続ける樹の上から。
 彼ら彼女らはこう考えているのだろうか。
「悪い王様がいなくなったから、これで自分達はしあわせになれる」
 こう考えて、そこで考えることをやめているのだろうか。
 そう長くもない歴史の中で何度も何度も何度も何度も同じことを繰り返して、なのに今またそれをもう一度繰り返そうとしているのだろうか。
 自らの幸福を他人の手に委ねる限り、誰も本当には幸福にはなれないということを?
 いや、違う。
 この世界に生まれ落ちた時点で、もう誰も幸福になったりは出来ないということを。
posted by 樋川春樹 at 21:52| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第9週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『濃縮』
『よしんば』
『アクリル』

・期限は2013年1月9日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2013年1月7日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 20:09| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"時限爆弾"

準備は整った

もうここまで来たらどうしようもない
さんざん悩んで相当迷って
それで出した結論だから
あとは突き進むだけ

抜け殻みたいに生きてきた
生活がちゃんと安定していたし
このまま毎日普通に
朝が来て昼が来て夜が来てまた朝になって
そしていつか死ぬんだと思ってたけど

この生活を根底から
叩き壊さなきゃならなくなった
このまま抜け殻みたいに生きる方法も考えたけど

まだまだ時間がある
五体満足で健康な身体もある
やる気さえあればなんだって出来るのだ
地球の裏側にだって行こうと思えばいけるし
今から政治家にだってなれるかもしれない

そんな可能性を潰して
こんな変わり映えのしない安定にすがってていいのか
しかも手ひどい裏切りを受け続けてまで

一つ一つ着実に準備は整えた
ものすごいストレスで何度も吐いたけど
それも仕方のないこと

希望に向かって打ち上げる爆弾
あとは導火線に火をつけるだけ
さようなら、安定した生活

さようなら、あなた

posted by 華涼紗乃 at 19:58| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"寝不足"

私には尊敬する上司がいる
管理職は男性ばかりな私の会社の中で
唯一、女性で役職についている

すらっと背が高くて抜群のスタイル
いつもスタイリッシュなスーツを着こなし
髪の一筋までも油断なく
きりっとした表情

近づきがたく思えるのだけど
所々に見せる笑顔がとても華やか
いつもこんな女性になれたらなあと思う

そんな上司が今日はとても眠そうだ
あくびをかみ殺しているなんて
なかなかレアな表情だけど
一体どうしたんだろう?

ふと気づくとそんな上司を
ニヤニヤと見つめている男性の同僚がいた

上司は美人だから
よく見つめている男性社員はいるけれど
どれも憧れの視線という感じで
こんなに笑いをかみ殺すような表情で見る人などいない
それにその同僚はいつもは上司に興味がなさそうなのに

上司が同僚の視線に気がついた
ばっちり目線が合う

その瞬間、すべてがわかった気がした

視線と表情だけの会話
それも数十秒のこと
なのに何よりも雄弁に二人の関係を物語っていた

きっと二人は昨夜一緒にいて
寝不足になるほどの何かがあったのだろう

驚きとつい想像してしまったので
頭が混乱してぼんっと顔が熱くなった

こんなんじゃ仕事にならない
二人の顔もまともに見れそうもない
ちょっと涼んで一息入れよう
posted by 華涼紗乃 at 19:58| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"喫煙所"

煙草は身体に毒なんて百も承知である

でも吸う習慣がついてしまうと
やっぱりいろいろ便利なのだ

ある友人は二人目の彼女を作るときは
煙草をすわない人に決めているようだ
喫煙所に逃げ込んで電話やメールで
本命をごまかせるから
非喫煙者はあんなに煙たいところ
めったに入ってこないしな

それに「煙草を吸う姿」は非喫煙者から見ると
ある一種の憧れに近いようで
わりと女性に好まれる…らしい

テンション高く煙草はいいぞと後輩に語っていたが
そんな友人はもう何度も痛い目を見ているので
後輩にはあいつの言うことは話半分でと釘を刺しておいた

友人とは違うが煙草はいいと俺も思う
誰かと一緒のときふと一人になりたくなることがある
何となくリセットが必要なときが
今の世の中は喫煙者には厳しいから
喫煙所がそこから外れるいい口実

煙草を取り出し火をつけて口をつける
ふうっと煙を吐き出して
アクリルと白い煙の別空間で
つかの間の一人の時間を楽しむんだ
posted by 華涼紗乃 at 19:57| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月19日

【指令】第8週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『歓喜』
『こまごまと』
『カフェ』

・期限は2012年12月26日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月24日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 19:05| Comment(2) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"シュレッダー"

バリバリとすごい勢いで噛み砕く
書類10枚程度ならあっという間
CDだってDVDだって
プラスチックのカード類だって難なく粉砕

最近はどこのオフィスでもある
俺もそんな中の一台

毎日何かしら粉砕したいものを持ってくる
何でニンゲンは
そうなんでも粉々にしないと気がすまないんだろうね?
まあ、そうしてもらわないと俺も存在意義がないけど

よく見ていて気づいたのは俺を使うのは
だいたいそのオフィスの中でも下っ端の人間のようだということ
俺のいるところはオフィスのはずれだから
そんな連中は俺を使いながら
愚痴をはいたり、ためいきついたり、
ぼーっとしたり、気合入れたり、
いろいろな表情を見せてくれる

それを見ているとニンゲンは本当に大変そうだ

あるとき、若い男がやってきた
頭も何だかくしゃっとしてるし
ネクタイもバランスがおかしい
大あくびをしながら俺のスイッチを押した

俺はいつものように動き出したら
いつもと違う手ごたえ
あ、ネクタイが巻き込んでやがる
…やれやれ
スイッチポンの簡単設計の俺様も
まともに使えないようじゃ先が見えたな

…ってまだ気づかねえのかよ!
おい、俺は自分では止められねぇんだよ!
さっさと気づけよ、首締まって死ぬぞ!
posted by 華涼紗乃 at 18:59| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"ペットボトル"

姉がいつのまにかペットボトル貯金を始めていた
こないだ用事があって部屋に入ったら
小銭がぎっしり入ったペットボトルが2つ

何だか違和感
こういうのは姉の趣味じゃない
イラっときた

これ、どうしたの?
お金ためてるんだ、年末は何かと物入りだしな

えーえー、クリスマスにお正月に
カップルにとってはイベント目白押しですからね!

な、そういう意味じゃなくてだな!

じゃあ、どういう意味だよ?
だいたい金ためるにしてもこんなの姉ちゃんっぽくねえよな?
そ、それは、その
何?このペットボトル、カレシに買ってもらったの?
う…もう!弟には関係ないだろう!
え?マジ?気持ちわるっ!
気持ち悪いって言うな!もう出てけ!

背中をぐいぐい押されて
部屋から追い出されてしまった
しかし、あんなものまで取っておくなんて
ちょっとすごい
ペットボトルって積極的にリサイクルに出すものだろう!

確か告白したのは彼氏のほうだったのに
何で姉ちゃんがあんなにハマってるんだろ?

…ちょっと本気で心配になってきた

posted by 華涼紗乃 at 18:57| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"コンサート"

もうすぐ世界が滅びる日だね
あんなのもう随分前に否定されたよ?
わからないよ、きっと何かは起きるんだよ
馬鹿馬鹿しい、いつも通りに決まってるよ

すれ違い様に聞こえた会話

立ち止まって振り返った
笑顔で話しながら遠ざかってゆく二人

きっと話を振ったほうも
信じてなどいないのだろう
心の片隅でほんの数パーセント
本当に滅びたらどうなるだろう?なんて
空想や期待はしているとしても

しかし、それは本当に現実のものとなる

あと数日でこの星は大きく動き出す
雲は渦巻き、地はひび割れ、海は荒れ狂う
建物は崩れ落ち、交通機関はすべてストップ
通信機器も全部使えなくなる予定だ

人が築き上げた世界が
人に対して牙をむく

どんな轟音が鳴り響き
どんな悲鳴が響き渡るのか
今からとても楽しみだ

どんな生命も助かりはしない
だけど一瞬で死滅するわけではない

だから出来るだけ長く生きるよ
人々の絶望の声を
少しでも長く聞いていたいから

カウントダウンは始まっている
コンサートはもうすぐ開演する

posted by 華涼紗乃 at 18:56| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第8週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『喫煙所』
『寝不足』
『時限爆弾』


・期限は2012年12月26日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月24日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 02:53| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『コットン』

「あーあ、まぁたこんなトコロにひきこもって本ばっか読んでるー」
「……何か用?」
「何か用、ってか、もう夕ご飯の時間だよ! 窓のない部屋にいて時計見ないからわかんないんでしょ。『マスター』が呼んで来てって言ったから来たのー。今日のゴハンはカレーライスだよ!」
「……あぁ、もうそんな時間なのか……ついつい没頭しちゃってたな」
「そんな古臭い本ばっか一日中読んでて、面白い?」
「おマエの相手してるよりは面白い」
「うわヒドい」
「あと、内容を問わずに雑多な知識を入れておくことはボクの役目でもあるからね。ボク達は色んなところに行くだろ。どこでどんな情報が役に立つかわからないから」
「ふーん……イマは何を読んでたの?」
「コットンってものを知らなかった頃のヨーロッパについて。……おマエ、綿ぐらいは知ってるよな」
「まぁたおいらをバカにして! ワタぐらい知ってるよ、こないだクリスマスツリーに雪の代わりに飾った奴みたいなのでしょー」
「……知ってるって言っていいのかな、ソレは……まあいいけど。コットンの現物を知らなかった当時の人間は、遠い異国に羊のなる木が存在して、そこからコットンがとれると思ってた。プランタ・タルタリカ・バロメッツという名前の伝説の植物だ。実の中の子羊は木のまわりの草を食べて育ち、やがてまわりに草がなくなると飢えて木と共に死ぬ。この羊は蹄まで羊毛になっているので無駄なところがなく、その肉はカニの味がするらしい」
「なンでヒツジなのにカニの味がすんの……?」
「そこまでは知らないよ。当時の人間達に会うことがあったら直接訊いてくれ」
「ってゆーかそのチシキって一体どこで何の役に立つの?! ワケのわかんない木の名前まで覚えて!」
posted by 樋川春樹 at 02:50| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『たびたび』

 夢の中で夢から醒めて、その夢の中でまた夢を見ていた。
 暗い部屋の中で目を開いたとき、自分が一体どこにいるのかすぐにはわからなかった。
 夢の中なのか、現実なのか、それとも夢の中の夢の中なのか。

 ここは、現実。多分、だけど。

 夢はよく見るほうだ。
 よく見るほう……いや、ほとんど毎夜、見る。
 ひと晩に何本も。

 酷い夢。
 怖い夢。
 嫌な夢。
 暗い夢。
 重い夢。
 痛い夢。

 いい夢も、ちゃんと見る。

 たびたび見る夢がある。
 同じ夢ではないし、続きものというわけでもない。

 とある町で暮らしている夢。
 その町に住む人達を私は知っている。
 その町に住む人達も私を知っている。
 見慣れた景色−一度も見たことがないはずなのに懐かしい風景−次の角を曲がると何があるのか、夢の中の私は知っている−どこにあるのかもわからない町なのに。

 その町にある自分の家の、自分の部屋の自分のベッドで眠りに落ちて。
 現実、で目を醒ます。
 でも私は何故か知っている、自分がまたその町で暮らしている夢を見ることを、いつになるかはわからないけれど、その夢を必ず見ることを。
posted by 樋川春樹 at 02:49| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『憤怒』

 届かない。
 届かない。

 喉が破れるほどの叫び、その叫びの引き金となった激情、このうえもなく無力で世界に対して何も出来ない自分自身に対する憤り、起こってしまったことに対する絶望、とりかえしのつかない現実への恐怖───

 届かない、何も届かない。
 あの空はどこまでも青く高く平然と晴れ渡っていて、遥か高みを吹く風は地べたを這いずる生き物達がどのような悲惨の内にあろうともまるで平気なのだ。

 意味をなさない言葉をわめき散らした。
 皮膚が裂けるほどに大地を殴りつけた。
 髪をぐしゃぐしゃにかきむしって頭を抱え込んだ。
 見開いたままの両目はまばたきすら忘れて世界をとらえ続けた。
 身体の内側から自身が灼熱の炎と変わるような。
 あるいは身体の中心から自分が制御のきかない濁流となるような。

 溢れほとばしり燃え上がり荒れ狂うその感情だけが自分にとっての全てなのに、それほどの怒りも世界の何も変えはしない。
 世界にほんのわずかな傷さえつけられないままにのた打ち回るちっぽけな存在を、本当に一顧だにせずに、いつも通りに何もかもは回ってゆく。

『思い起こせ、思い起こせ、神は見ておられることを』

 けれどその感情を、ああ、どうやって抑えることが出来るだろうか。
 大切なものを奪われた。
 大切なものを奪われたのだ。
 この生命よりも大切なものが、永遠に失われてしまったのだ。

 なのに、届かない。
 届かない。
 非力なこの手は何も掴めない。
 非力なこの身は何も変えられない。
 いやだ、そんなのはいやだ。
 そんなのは認められない。

 掴むのだ、変えるのだ、届かせるのだ。
 この世界に、大きな傷をつけてやるのだ。
 そうしてわからせなければならない、この怒りの大きさを、この怒りの重大さを、この怒りの耐え難さを。
posted by 樋川春樹 at 02:48| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月12日

【指令】第7週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『憤怒』
『たびたび』
『コットン』

・期限は2012年12月19日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月17日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 19:25| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"どしゃ降り"

傘を持ってくるのを忘れた

ビルのエントランスから
ガラス越しに激しい雨が降っているのが見える
まだ午後三時なのに真っ暗で
車が跳ね上げる水しぶきが大きい
傘がなければものの数秒で
下着までぐっしょりだろう

コンビニまでは走っても5分はかかりそうだ

普通なら少し様子を見てみようとか
誰かに迎えに来てもらおうとか
タクシーを呼ぶとか
いろいろ考えるのだろうけど

あいにく私は
時間の定まらない待ち時間は嫌いだし
こんな時間にフリーの友人も家族もいない
そしてお金もない

なので濡れて帰るという選択肢を普通に選ぶ

まずは濡れて困るものを
できるだけ耐水性のありそうなものでぐるぐる巻きにして
鞄の中に入れなおす

そして雨など感じないかのような顔をして出て行く
走るのは嫌い、だから普通に歩く

外に出ると待ってましたと襲い掛かってきた
激しい風と雨

冷たい、雨粒が身体にあたる感触がうっとおしい
首筋が濡れて冷えていく
髪が濡れて顔に張り付く
眼鏡はあっという間に水滴で前が見えなくなった

外国人は傘をささないというが
正気の沙汰ではない
ああ、傘ってなんてすばらしいものだ
絶対、これから傘だけは持ち歩こう

その後、
傘をさしかけてくれる人がいたとか
翌日風邪を引いたというイベントはなかったけど
とりあえず新しい折り畳み傘が私の鞄に増えた

posted by 華涼紗乃 at 19:20| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"研究所"

パチリとスイッチを入れると
そこは黒くて四角い機械だらけの空間
何の音もせず
何のにおいもしない
一見すると倉庫のような部屋だ

部屋の中央に立ってインカムをセット
深呼吸をして一言
「起動」とつぶやく

そのとたんに
あらゆるインジケーターが点灯・点滅
モーターが回り始めた

天井付近に設置してある
6台の小さめのディスプレイには
若い女性がそれぞれ6人映し出された

画面には分割されて
彼女たちの個人情報
彼女たちのSNSサイト
彼女たちが現在いる場所の防犯カメラ映像
彼女たちの部屋の画像が
そこにあるのが当然のように表示されている

僕の研究のために若い女性の動向を調査している
データ収集と実益を兼ねて
ストーキングの手助けや
素行、浮気調査も同時に行っている

今日も誰一人、気づかれることなく
無事にデータは集め終わっているようだ
もっとも今まで一人として
調査終了まで気づいた人はいなかったのだけど

データを確認すると一人の調査対象に動きがあったようだ
早速クライアントに回線を繋ぐと
指示とすぐに振込があった

彼女の誰にも見られたくない部分を
記録から切り取って動画サイトにアップする
アドレスは複数のSNSアカウントでネット上にばら撒いた

さて彼女の身近に届くまでどのくらいかかるかな

ここから一歩も動かずに人を一人破滅させるのに
いったいどれくらいの時間が必要か
どのルートで情報が届くか監視する

日本ではほぼすべて障害や問題はクリアした
今度は海外への進出を試みてみよう

幸い軍資金は尽きる心配がなさそうだ
posted by 華涼紗乃 at 19:19| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"設計図"

君を見ていると
白い紙に濃紺の線が何本も引かれている
整然とした設計図を思い出す

自分の性格、容姿、能力
すべてを熟知した上で書かれた
最大限面白い人生を送るための設計図

普通は
自分のことを自分で知ることすら難しい
設計図なんて夢のまた夢

時間に流され
周りに促され
何となく漂うのが人生で
みんなそういう生き方でうまくいっていた

けど最近はそうでもない
誰でも大人になれば出来ると思っていたことが
気がつけば何ひとつ自分にはないことが
たくさんたくさんあるのだ

君は言う
だからデザインするのだと
何かを成し遂げるには
自分で動き出さなきゃ始まらないものなんだと

君が作った素敵なお家の中で
君の小さな子どもと遊んで
君が作ってくれたお菓子を食べて
君が創った歌を聞く
来週には海外に行きそのまま永住するそうだ

そんな君を見ているだけで
何でもかなうんだと思えるよ
自分でも出来るんだと勘違いできる
その淡い希望だけで
私はまた流れていけそうな気がする
posted by 華涼紗乃 at 19:18| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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