2012年11月28日

【指令】第5週:樋川→華涼

++++


ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『吸血鬼』
『半信半疑』
『待ち伏せ』


・期限は2012年12月5日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月3日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 樋川春樹 at 21:39| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『リメイク』

 あのときのことはまだ鮮明に憶えているよ。

 どこかとても遠いところを見やるような表情になって、老人はしみじみと呟いた。

 忘れようとしても忘れられるものか、そりゃあ素晴らしいものだった。
 ひとよりもいくらか長く生きてきた身だけれど、あれほど感激したことは人生にそうはなかったよ。

 それまで白黒だった世界に、何千何万もの色が着いた。
 それまで無音だった世界に、いきいきとした声と音楽が響きわたった。

 映画館のスクリーンに映し出された、華々しく賑やかでスリルとロマンスに満ち溢れたその世界は、それを観るもの達の心をいっぺんに掴んでしまって長い間はなさなかった。

 同じ作品を、繰り返し繰り返し観たものだ。飽きるなんてことはまったくなかった。

 自分達が暮らしている日常とはまるで違う世界が目の前に現れるだけで、自分達とは全然異なる価値観を持って生きている登場人物のすることをただ見ているだけで、本当に本当に楽しかった。

 食糧も働き口も明日への希望すらなかったあの頃。
 スクリーンの中で華やかに笑う人々に強く憧れ、少しでもそばへ行こう、同じような幸福な暮らしを送れるように、と願い続けた。

 あの日々のことはいまも鮮明に憶えているよ、忘れられるものじゃない。

 いま上映されているのはリメイクされた作品で、脚本も演出も若干現代風にアレンジされているようだけど、それでもいまの人達には退屈なだけのストーリーかもしれないな。
 何十年も昔にこの映画がどうしてあれだけ繰り返し上映されたのか、当時の人々があれだけ支持し続けたのか、やっぱり理解出来ないかもしれないな。

 はじめから色も音楽も豊富な世界に生まれついたひと達には、あの頃、灰色に閉ざされた世界からスクリーンの向こう側に焦がれ続けた気持ちはきっとわからないだろうな……。
posted by 樋川春樹 at 21:35| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第5週:華涼→樋川

++++


ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『写真』
『ただでさえ』
『オレンジ』

・期限は2012年12月5日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月3日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 華涼紗乃 at 20:40| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"らせん階段"

新しいリラックス方法だと偽って
君を呼び出して長椅子に寝かせた

あとは僕の質問に答えさせるだけ

あなたは長い螺旋階段を降りています
長く長く階段の先は闇に沈んでいます
一段一段ひたすら降りていってください

…さあ、あなたはどんな気持ちですか?

「…怖い、暗いし、疲れてきたわ」

そのまま休まず降り続けていると
螺旋階段の壁に
いろいろな風景が映りだしました
さてそれはどんな風景

「そうね…小さい頃のときのものが多いわ」

具体的に。

「七五三のときの着物を着た姿。
 中学校の入学式。
 高校の文化祭。
 大学の卒業論文のとき。
 初出勤のとき…」

彼女の話はとめどなく続く

それがつい三日前のことになったとき

ストップ!
あと20段で螺旋階段が終わります

「え…?もう終わるの?」

ええ、怖くて、暗くて、疲れる
階段はもう終わりますよ
良かったですね、あなたはほっとします

「え、ええ…。
 そうね、何だかゆっくり眠れる気がするわ」

一段一段降りていってください
さあ、あと10段
9、8、7、6、5、4、3、2、1…

彼女は大きく深呼吸をして、そして静かになった

口元に手のひらを近づける
呼吸は感じない
首元に指をあてても
脈を感じない

螺旋階段は人生の象徴
朝昼晩、春夏秋冬
繰り返してるだけに見えてもそれは違う

壁に映ったのは走馬灯の代わり

眠るように旅立てて良かったね
これで永遠におやすみ
posted by 華涼紗乃 at 20:30| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"主役"

あんまり慣れていないのだ
自分のこの状況に

女の子っぽい洋服着て
アクセサリーとかつけて
軽くメイクとかして
今日は手作りお菓子まで用意してしまった

好きだと言われて
舞い上がって
騙されてるんじゃないかとかも思いながら
何だかびくびくおどおどして

普通、好きだって言ったほうが
緊張するもんなのに
相手はいつも余裕っぽくて
何度か一緒に出かけたりしたが
まだ慣れない

でも一緒にいると心地いい
努力した分必ず褒めてくれる
ちゃんとエスコートしてくれてる
…大事にされてると感じる

まるで恋愛ドラマの主役のようだ
気恥ずかしいけどいい感じだ
弟がうらやましがって
ギリギリしてるのもいい気味だ

…慣れないけど頑張ろうと思う
た、体験できることはしておかないとな
posted by 華涼紗乃 at 20:29| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"ホットケーキ"

…美味しいよ?

姉ちゃんが作ったマフィンを
一口ほおばって言った

心配そうな姉ちゃんの顔が
みるみる得意満面になる

…男は簡単なものだな!
あはは!こんなの簡単に出来るんだぞ!
魔法の粉があるのだ!

…何その、怪しげなもの?

ホットケーキミックスだ!
これがあれば
クッキー、スコーン、マフィン、カップケーキ何でも作れるんだぞ!
簡単にだ!
女子の手作りお菓子に感動する男などすぐに騙せるわ!
あははは!

…あのね、姉ちゃん
そりゃ本格的なもの作れる人はすごいけど
自分の実力に見合って
しかも美味しいもの作ろうと思って
必死で調べて練習してこれ作ったんだよね?
彼氏の喜ぶ顔見たくて頑張ったんだよね?
たとえ魔法の粉を使ってたって
それだけで男は十分めちゃめちゃ嬉しいよ?

そういうと姉ちゃんは
今まで見たこともないくらい
真っ赤な顔をしてプルプル震えてた

お、弟のクセに!

え?

弟のクセに〜!!
姉ちゃんは叫びながら自分の部屋に走っていった

やれやれ、なんて可愛い姉ちゃんだろうね
彼氏うらやましいっていうか
憎いというか
いっそ殺してやりたいっていうか…

マフィン全部食ってやろうかな
posted by 華涼紗乃 at 20:28| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『まったく』

 OKです、ありがとうございました、それでは良い一日を! の声に送られて、ボク達はようやくゲートをくぐる。
 予定よりも若干遅くなってしまったけれど、計画に致命的な狂いが生じるほどではない。連休の中日、最も来場者数が多くなるだろう日を実行日に選んだ時点で、時間にはそれなりのゆとりを持たせて行程を組んである。

「ねえねえ、せっかくだからさ、一番人気のコースターぐらいは一回乗ってからにしようよ。こんなチャンスなかなかないんだしさ、ちょっと楽しむぐらい大目に見てくれるって」
「あそこにあるインフォメーションボードを見てみろよ、おマエが言ってるそれは200分待ちって表示されてるぞ。いくら今日はタイトなスケジュールじゃないからって3時間以上も遊んでられるワケないだろ。まったく、その能天気な性格はいつになったら改められるんだ?」
「ちぇー、つまんないのー。だってさ、ココッてこれからしばらくエイギョーテイシにしちゃうんでしょ? だったらその前に乗ってみたかったのに。でも確かに、200分待ちなんかしてたらいくらなんでも怒られちゃうよね。しょーがないか、また別のトコ行くチャンスが出来たらにしよっと」
「別のテーマパークに行くことになったとしてもボク達には呑気にジェットコースターに乗る機会なんか永遠に巡って来ないよ。さあ、さっさと仕事にかかろう」

 カバンの中から、さっきしまったばかりのペットボトルを取り出す。
 ボトルの半分程入っている、半透明の白に濁った液体がちゃぽんと揺れる。
 それから、パークの案内図を上着のポケットから出して広げる。
 入ってすぐのところで配布されている新しいものではなく、既に使い古されて傷みが目立つようになっているもの。ボク達の二日前にここに来た仲間から引き継いだマップだ。

「設置ポイントは25箇所。この混雑だ、テンポ良く回れても結構時間を食うよ。遊んでる暇はない」

 3種類の薬品を混ぜ合わせ一定の時間をおくことで、有毒なガスを生じさせることが出来る。

 二日前−空港で騒ぎが起こってこのパークの警備が強化されるよりも前−ボク達の仲間の一人がここに『ポット』を仕掛けに来た。まだ所持品チェックが行われていなかった頃−ハロウィンの時期、来場者による仮装イベントが実施されていて、大きな荷物を簡単に園内に持ち込むことが出来た頃。
 ごく小さな金属製の容器と、1種類の薬品。それをパーク内のいたるところに設置した。
 そして今日、ボク達の任務は、既にあるその容器に残り2種類の薬品を注ぎ込むこと。

 液体の持ち込みまでチェックされるほどに警備体制が強化されたのは想定外の出来事だったけれど、係員の目の前でひと口飲んで見せさえすればそのまま持って入れると言うのなら問題はない。
 人間であれば口に含むことなど出来ないような劇薬だけれど、ヒトではないこの身にとってはたやすいことだ。毒物の摂取で生命を落とすこともないし、妙な味のものを口に入れたからと言ってそれを吐き出してしまうようなこともない。
 持ち込んだ液体を係員に飲ませなければならないというのであればまた別の方法を考える必要があっただろうが。

「ボクは全部アタマに入ってるから、マップは持って行っていい。ボクは時計回りにポイントを巡るから、おマエは反時計回り。打ち合わせた通りだ。くれぐれも、途中でパレードとかショーとかキャラクターのグリーティングとかに気をとられるんじゃないぞ」
「シンヨーないなぁ、わかってるって! んー、でも、せめてあの浮かれたデザインのカチューシャぐらいは買って着けててもいいよね?」
「いいワケないだろ? って言うかそう訊いていいって言うとおマエは本当に思ってるのか?」
「だよね。はぁい、ちゃんとおシゴトしまーす」
posted by 樋川春樹 at 01:41| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『過敏』

 チケットブースを通り過ぎてから入場までにやたらと時間がかかったのは、エントランスゲートの前で所持品チェックが行われていたからだった。
 魔法と冒険の国、みたいなメルヘンなフレーズに惹かれてやって来たお客達を束の間であっても現実に引き戻してしまうような、物々しい光景。
 もちろん、チェックに当たっている係員は必要以上に威圧的にならないよう細心の注意を払ったファンタジーな制服姿、いかにも爽やかな笑顔を満面に絶やさず浮かべて来場者に余計なプレッシャーを与えないよう万全の心配りがなされていたけれども。

「えぇー、カバンの中を見せるだけじゃなくて、ペットボトルのジュースは飲んで見せなきゃいけないの? それってちょっとゲストを疑り過ぎなんじゃないの?」

 同行者がわざと大きな声で係員に不平をぶつけている。対応している係員は誠に申し訳ございませんみたいな表情でしきりと頭を下げているけれど、だからと言ってチェックの手を緩めてくれる心づもりはなさそうだ。同行者がカバンに入れて持ち込んだ炭酸飲料のペットボトルを白いクロスで覆われた長机の上に置いて、ひと口飲んでからカバンにしまうように促している。
 ボクのカバンの中からもスポーツ飲料のボトルが取り出されて、同じ机の上に載せられていた。

「仕方ないだろ、最近はどこも色々と物騒なんだから。過敏になって当然だ。こないだ空港でも危険物持ち込み未遂の騒ぎがあったし、こういうチェックが厳しくなってるのはこの人達のせいじゃない。くだらない文句言ってないで早く飲みなよ」

 中身が半分入ったペットボトルを取り上げて、当たり前の動作でキャップを外してあおってみせる。
 同行者も、そーだよね、ごめんね、と係員ににっこり笑いかけてちょっと頭を下げてから、ボクと同じようにする。
posted by 樋川春樹 at 01:39| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。