2012年11月21日

【指令】第4週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『ホットケーキ』
『主役』
『らせん階段』


・期限は2012年11月28日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月26日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 23:08| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『コンディション』

 左の眼が。
 見えにくい。

 少しばかりダメージを喰らい過ぎてしまったのだろうか。
 そう言えばいつもよりも血を流してしまっている気がする。
 早くカタをつけてしまいたくて、ほんの少しだけ焦っていたかもしれない。
 かわせるものをかわさず、防げるものを防がなかった。

 良くない傾向だ。
 とても良くない傾向だ。

 自分達はいつだって最良のコンディションでいなくてはならない。
 いついかなるときでも全力で『マスター』の力となれるように。
 自分自身を最上最高の状態に保っていなくてはならない。

 こんなところでこんなときに、こんなくだらない傷を負ったりしていてはいけないのだ。

 傷口はすぐに修復されるし、失った血液はすぐに体内で生成されて補充される。
 視覚の不調も数分以内には回復するだろう。
 瓦礫に腰をおろしてじっとしていればわずかでも治りが早くなるだろうか。
 見渡す範囲内、自分の他に動くものは何もない。
 かつて動いていたもの達は自分が全て叩き壊してしまったから。

 左の眼が元に戻ったら、水が使えるところまで移動して、血みどろになっているに違いない顔と手を洗おう。
 どこかで新しい衣類は手に入るだろうか。出来れば鏡に代わるものもあればいい。
 帰る前にちゃんと身なりを整えたい。
 傷ついたまま、乾いた血をこびりつかせたままで戻ると、『マスター』を動揺させてしまうから。
posted by 樋川春樹 at 23:05| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『やれやれ』

 ケンカするほど仲が良い、とはよく言う、けれど。
 やっぱりそれにも限度があって、こうも四六時中ケンカばっかりしているのは、ただ単に本当に仲が悪いだけなのではないだろうか、と思いたくもなる。

 ふたりはよく似た性格をしていると言われる。
 見分けがつかないぐらいにそっくりだと、彼らのことをよく知らない他者から言われることもある。
 出会ったはじめの頃は自分もそう思っていた。
 一緒に長い時間を過ごして来た今では、当たり前だけれど彼らが全然違う人格の持ち主であると、ちゃんとわかるようになった。

 ひとりは涙もろいけれど芯が強くて。
 ひとりはわがままだけれどいつも怯えている。

 人間ではない彼らに何故性格の違いがあるのか−何故彼らが人間のように異なる性格を持つのか−いつかざっとだけれど説明されたことがある。
 「多様性は可能性」なのだと。
 まったく同じものをプログラムしてまったく同じ反応を返すようにしてしまうと、不測の事態に対処しきれない。最悪、なす術なく全滅してしまう危険すらある。
 異なる思考は対立や困惑を生むけれど、そのことが違ったアプローチや互いをフォローする働きを生んで思わぬピンチにも対処出来る確率が飛躍的に高まる。
 自分達が様々な『性格』を持つのは出来るだけ忠実に人間を模しているからでもあるけれど、と彼は笑って付け足した。

 ケンカするほど仲が良い、きっとあんな風に、と向かってケンカ出来る相手がいることは、幸せなのだろう。当人達がおそらくはそう思っていないとしても、自分の考えをぶつけあえる相手がいるというのは良いことだ。たとえそのきっかけが子どもじみたつまらないことであったとしても、口論に留まらず取っ組み合いを始めてしまったとしても、それを眺める自分の口から「やれやれ」という台詞の代わりに思わずため息が漏れたとしても───きっと、それはとても良いことなのだ。
posted by 樋川春樹 at 23:05| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『美白』

 朝目が覚めたとき、窓の外は白銀の世界だった。
 部屋の中は戸外と変わらないんじゃないかと思えるぐらいに冷え切ってしまっていて、温もった布団の中から出るのには多大な意志の力を必要とした。

 それからほんの数時間後。
 昼過ぎの今は、灼熱の太陽の下にいる。
 目玉焼きどころかステーキが焼けそうなくらいに熱されたアスファルトの上。
 日陰に逃げ込むことさえままならない雑踏の中を、意識を朦朧とさせながら人の波にただ流されるようにして、とにかく歩き続けている。

 珍しくも異常でもない、いつものことだ。
 自分達は常に様々な場所、様々な時間を移動し続けている。
 ひとつところに留まるときもあるけれど、それもそんなに長い間のことではない。

 日に幾度もスコールが降るような南国の街から、分厚い毛皮で出来た服をまとって雪と氷で出来た家に住まう人々の暮らす北国の集落へ。
 あらゆる業種の店が集う巨大なショッピングモールを朝から晩まで歩き回る日もあれば、数十キロ四方に他の人間が存在しないようなジャングルのど真ん中で野宿を強いられる日もある。

 毎日環境が大幅に変わるこの暮らしは、普通の人間にとっては強いストレスになったり、するのだろうか。
 こういう生活が日常になってしまった身には、いわゆる『普通』がどうだったのか、もうよく思い出せない。
 普通に生きて普通に暮らし、普通に老いて普通に死んでゆく、普通の人々がこの状況をどう感じるのか。
 他者の意見を尋ねたいところだけれど、隣りで「こんなに容赦ない直射日光の下にいつまでも立ってたんじゃキミのせっかくの美白が損なわれてしまう」という方向で自分のことを心配している同行者に問うてみても、望むような答えは得られないだろう。

 彼はひとではないのだから。

 そうして、自分もゆっくりとひとではなくなりつつあるのだ。
posted by 樋川春樹 at 23:04| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第4週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『過敏』
『まったく』
『リメイク』

・期限は2012年11月28日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月26日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 18:19| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"先約"

私は自分の意思でここにいる

ちゃんと選ばせてくれた
ここに遺るか、先に逝くか

あなたには見えないし
聞こえない、触れ合うことも出来ない
だけど私はあなたのそばで
あなたを感じていたかったから

あなたは私を喪って
すごく悲しんでくれた
すごく泣いてくれた
日常になかなか戻れなくて
みんなに心配かけてたね

助けてあげられなくて
すごく悔しくてすごく辛かった
それでもそばにいるのが嬉しかったんだ

やがてあなたは少しずつ前に向いた
仏壇も綺麗にしてくれて
お墓参りもよくしてくれるけれど
私の存在はあなたの中で
もう生々しくはなくなり始めた
そこでもういいかって思った

二人で戯れにした約束だけど
それを今かなえようと思う

「未練を残さずきっぱり逝く」

私の存在は
あなたに影響は与えないけど
いつまでもそばにいるのは
やっぱり良くない気がする

向こうで待ってる
また逢おうね、絶対だよ
幸せになってね

さようなら




…ああ、やっと言えたよ
posted by 華涼紗乃 at 18:13| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"光源"

スポットライトが向けられた

白く強く
周りの闇も存在自体を
あっという間に消される

ここはもう現実ではない
ここはもう日常ではない

一歩踏み込んでしまったら
もう私は別人で
違う時間を歩み始める

あの光の強さには
もう慣れたはずだったのに
リアルに引き返せない
その緊迫感は相変わらず身体の芯を震わせる

白く強く
目も潰されかねない
あの光を
その光の源を

あえてこちらから睨み付ける

きびすを返したらもう振り向かない

背筋を伸ばして
大またで
足音を響かせて

さあ、その世界の中央へ!
posted by 華涼紗乃 at 18:12| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"廊下"

校舎中がオレンジ色の光で満たされる
影は長く光は柔らかく
綺麗な夕焼け

あなたの顔も半分が闇に沈む
「行かないで」
連れ戻すように
引き寄せて口づける

誰もいない教室
誰もいない校庭
休日の学校に忍び込んだ

いつも一緒にいるココで
他の何にも邪魔されずに
あなたと二人きりになりたかったの

そして思い切り
触れ合いたかったの

あなたは
ふんわりと笑みを浮かべて
はだけた首元にもう一度唇を寄せた

自然とのけぞった瞬間に
身体ががくんとこわばった

廊下に走った黒い影
足音はしなかった
気配さえもなかったけれど

驚きと怖さとで震える私を
あなたは強く抱きしめた

気のせい、そう気のせい

死角が多い廊下は
死角の少ない教室を見張るには最適
影の口元は歪んだ笑いを浮かべていた
posted by 華涼紗乃 at 18:11| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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