2012年11月14日

【指令】第3週:樋川→華涼

++++


ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『廊下』
『光源』
『先約』

・期限は2012年11月21日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月19日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 樋川春樹 at 18:40| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『トランシーバー』

「スマホって便利だよね。デフォルトで入ってる電話の機能以外にも、通話用のアプリがたくさんあるから、それを入れれば電話しなくても会話が出来るんだよ。無料通話とか」
「無料なのは確かに便利だけど、きみ達が使ってるのって通話用って言うよりはスマホをトランシーバーにするアプリだよね? わざわざそういうのにしてるのは、一対多で音声を送れるのを評価してるとかそういう関係?」
「まあそれも確かにあるけど、主な理由は別にある。トランシーバーは同時に双方向には音声を送れない。一人が話し終わって回線を開けるまで、聞いてる側は聞いてることしか出来ない。そこが重要なんだ」
「どういう風に重要なの?」
「一人が完全に話し終わるまでは待つことしか出来ない……つまり、他人の発言に割り込んだり出来ないから、収拾のつかない口論になりにくいんだよ。相手の台詞にカッとなってもちょっとだけ間を置けるって言うか」
「なるほど。きみのところはただでさえ口喧嘩になりやすいメンツだもんねえ」
「ケンカになりやすい代わりに忘れるのもすごく早いから、御しやすいと言えば御しやすいんだけどね」
posted by 樋川春樹 at 18:37| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『はんなり』

「さっきのおばあさん、なんだかすごく褒めていたよ」

 声をかけると、すこし先を歩いていた『自分と同じ顔』が振り向いた。

「『はんなりしたええおなごはんどすなぁ』って」

 立ち止まったふたごの姉が、無表情ながらも怪訝そうに首を傾げる。
 たっぷりと腰まで伸びた艶やかな黒髪が揺れる。

「意味がよくわからない」
「おれもよくわかんないけど、でもなんだか嬉しそうに笑ってたから、きっと褒めてたんだよ」

 白い頬に細い指を触れさせて、姉はほんのわずかに考え込む素振りを見せる。
 それも十秒には届かない数秒の間のこと。

「褒められるようなことはしなかったと思う」
「おれもそう思う。でも、褒められたんだからいいじゃないか」

 こちらの言葉を否定も肯定もせずに、姉はまた進行方向に向き直りすたすたと歩き出した。

 つくりものめいて白くきめの細かい肌に、墨を流したような濃い黒髪。
 深い夜の静けさをひとのかたちにしたような姉の容姿と立ち居振る舞いを、あのおばあさんは素直な気持ちで賞賛してくれたのだと思う。
 生まれたときからずっとかたわらにいる『もうひとりの自分』のようなふたごの姉を褒められたのは、おれにとっても嬉しいことだ。
 他の人からプラスの感情を向けてもらえるのは、ありがたいことだと思う。

「ここはいいひとが多いよね。ちょっとわからない言い回しも多いけど、みんなおれ達に親切にしてくれる。それに、景色も素敵だね。良い雰囲気の古い建物がちゃんとたくさん残ってるし、自然も多い。いい場所だよね。来て良かった」

 歩きながら話し続けるおれを、姉はいちいち振り向いて見たりはしないけれど、それはいつものこと。
 さっき足を止めてこっちを向いたのは、自分が褒められていたということにびっくりしたからだ。
 無表情で口数の少ない姉だけれど、おれにはその反応の意味はちゃんとわかる。
 ずっと一緒にいるのだから。

「それにしても、『はんなり』ってどういう意味なのかなぁ。辞書で調べてみようか。今」
「必要ない」
「自分がどんな風に見られたのか、興味ないの?」
「興味ない。それ以前に、社交辞令」
「そうかなぁ。確かに、ここのひと達って、本心を隠す傾向があるみたいだけどさ」

 他愛ないことを喋りながら、入り組んだ路地を何本も通り抜けてゆく。 
posted by 樋川春樹 at 17:58| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『錯視』

「たとえばこれが世間的に最も有名な例」

 ちびた白墨を手に取ると、彼は古びた黒板の隅の方に迷いのない手つきで直線を走らせる。

「端に矢印に似たかたちを描くと、同じ長さの2本の直線が長く見えたり短く見えたりするもの」

 あるいは、と付け足して、彼は別の隅に今度は円を並べて描く。

「円を囲む円の大きさを変えると、片方の円は大きく、片方の円は小さく見える」

 淡々とした口調で説明しながら、彼はそんな調子で大きな黒板いっぱいを錯視の例となる図形で埋め尽くしてゆく。
 直線も正円もフリーハンドで、複雑な幾何学模様も寸瞬の惑いもなく。

 まっすぐな線が折れ曲がって見えるもの。
 本来は存在しない図形が浮き上がって見えるもの。
 つながっているはずの線がずれて見えるもの。
 同じ角度のものが違って見えるもの。

 ちょっと目と脳がおかしくなってしまいそうな図形で黒板が埋まり、チョークが完全に使えない短さまですり減ってしまってようやく、彼はこちらへと向き直る。

「つまりこれほどまでに、人間の目は騙されやすい。脳が処理速度を上げるために自動で補正をかけるせいとも言われているけれど、大半の錯視は原因が判明していない。生身の視覚や知覚はかなり信頼度の低いものなんだ。でも、ボクらは違う」

 そこでようやく、彼は本題に入る。

「ボクらは人間を模して人間と同じようにつくられているけれど、本質的には人間ではなくそもそも生き物ですらない。ボクらの目はここにあるような図形の錯覚にはまったく惑わされない。ボクらが人間の姿をしているのは人間の不完全な能力をコピーするためじゃなく、『マスター』、キミと行動を共にしやすくするため、それがキミの身を守るのに都合が良い形状だから。つまりボクらは、このかたちでなければならない存在というものでもない。それをキミが望むなら、そしてボクらがキミにとって利益になると判断出来たなら、ボクらはどんな姿にでもなるし、そのために今の容姿に執着したりはしない。ボクらはただキミのためだけに存在するまやかしの生命。ボクらの存在意義はただひとつ、『マスター』、キミの役に立つことだけだ」

 淀みのない口調で流れる理知的な声を聞きながら、白墨で描かれた不可思議な図形達を眺めている。
 単体ならばどうということのない図形に、ほんのわずか描き足すだけでまったく違った意味を持たせる、錯視という構造。
 現実世界では誰からも必要とされず愛されもしなかった私が、彼ら『狩人』を得ることで『マスター』という意味のある存在となるように。
 それは、本当は何もないその場所に何かの間違いで浮かび上がる───きっとただの錯覚でしかないのだ。
posted by 樋川春樹 at 17:21| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第3週:華涼→樋川

++++


ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『美白』
『やれやれ』
『コンディション』

・期限は2012年11月21日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月19日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 華涼紗乃 at 15:52| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"氷水"

グラスいっぱいに氷を入れる
ゆっくりと冷えた水を注ぎ込む

お風呂上りにいつも飲む一杯
お酒は昔から飲めないし
お茶は何だかかっこ悪いし
ジュースは太るから無理
そうすると自然と水に落ち着いた

グラスを掲げると
キラキラと水滴にLEDの光が反射する
ごくごくと思い切り飲むと
のどを通る感触が気持ちよくて
胸の間を通る感覚がスッとして

一日のいろんなものが
落ち着くべきところに収まる気がする

昨日はいい日だったかどうか覚えてないし
今日もあんまりいい日ではなかったから
明日はちょっといいことがあればいいなぁ〜

この瞬間に思い出せるくらいに

お風呂で温まった体が徐々に冷え始める
さあ、寝る準備は万端
暖かい布団に包まって、さあおやすみ

残りの氷水は悪夢を見たときのために
枕元においておこう

posted by 華涼紗乃 at 15:42| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"一進一退"

ジリジリと、ジリジリと
抜き足、差し足、忍び足
ソロソロと、ソロソロと
慎重に、真剣に、緊張感を持って

気づかれないように
ちょっとずつ、ちょっとずつ
近づいているつもりなのに

心も、身体も、何もかも

根回しはとっくに昔に済ませたし
本人以外は周知の事実

そんな完璧な包囲網なのに
するりするりとあなたは逃げる
投げた釣り針もスルー
振り上げた網もかわして

なかなか私のものになってくれない

こんなに好きなのに
こんなに好きなのになぁ…
どうしてうまくいかないんだろう

あなたはそんな私を見て
ほくそ笑んでるのか、嘲笑ってるのか
いつも良くわからない

でも、負けない
いつか絶対捕まえてみせる

逃げなければ、諦めなければ
いつか手が届くはず
posted by 華涼紗乃 at 15:41| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"隠しごと"

ナルシストのあなたに
ひとつ教えてあげただけ

鏡を見ることが好きなあなたに
とっておきのプレゼント

自分以外の誰しもを見下し
親友だと思っていたのは私だけで
本当はただの引き立て役

それだけなら良かったけれど
ストラップ、アクセサリー、ぬいぐるみにお金
初めて愛したあの人だって
あなたは全部私から盗っていった

「私に仲良くしてもらえるだけありがたいと思いなさいよね。」
そんな言葉と嘲笑を投げつけて

だから復讐、シンプルに
とてもスタイリッシュに

鏡の自分に向かって
しっかり目を合わせて
呪文を唱えるの
そしたら
綺麗になれるって雑誌載ってたよ

素直でバカで彼女に
隠しごとなんてしない私の言葉
全部鵜呑みにしちゃったみたい

数週間で彼女は私の前から姿を消した
携帯に着信はあったけどそっと着信拒否にした

鏡の中の新しい狂った友達にどうぞよろしく
posted by 華涼紗乃 at 15:40| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。