2012年11月28日

【指令】第5週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『吸血鬼』
『半信半疑』
『待ち伏せ』


・期限は2012年12月5日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月3日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 21:39| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『リメイク』

 あのときのことはまだ鮮明に憶えているよ。

 どこかとても遠いところを見やるような表情になって、老人はしみじみと呟いた。

 忘れようとしても忘れられるものか、そりゃあ素晴らしいものだった。
 ひとよりもいくらか長く生きてきた身だけれど、あれほど感激したことは人生にそうはなかったよ。

 それまで白黒だった世界に、何千何万もの色が着いた。
 それまで無音だった世界に、いきいきとした声と音楽が響きわたった。

 映画館のスクリーンに映し出された、華々しく賑やかでスリルとロマンスに満ち溢れたその世界は、それを観るもの達の心をいっぺんに掴んでしまって長い間はなさなかった。

 同じ作品を、繰り返し繰り返し観たものだ。飽きるなんてことはまったくなかった。

 自分達が暮らしている日常とはまるで違う世界が目の前に現れるだけで、自分達とは全然異なる価値観を持って生きている登場人物のすることをただ見ているだけで、本当に本当に楽しかった。

 食糧も働き口も明日への希望すらなかったあの頃。
 スクリーンの中で華やかに笑う人々に強く憧れ、少しでもそばへ行こう、同じような幸福な暮らしを送れるように、と願い続けた。

 あの日々のことはいまも鮮明に憶えているよ、忘れられるものじゃない。

 いま上映されているのはリメイクされた作品で、脚本も演出も若干現代風にアレンジされているようだけど、それでもいまの人達には退屈なだけのストーリーかもしれないな。
 何十年も昔にこの映画がどうしてあれだけ繰り返し上映されたのか、当時の人々があれだけ支持し続けたのか、やっぱり理解出来ないかもしれないな。

 はじめから色も音楽も豊富な世界に生まれついたひと達には、あの頃、灰色に閉ざされた世界からスクリーンの向こう側に焦がれ続けた気持ちはきっとわからないだろうな……。
posted by 樋川春樹 at 21:35| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第5週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『写真』
『ただでさえ』
『オレンジ』

・期限は2012年12月5日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年12月3日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 20:40| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"らせん階段"

新しいリラックス方法だと偽って
君を呼び出して長椅子に寝かせた

あとは僕の質問に答えさせるだけ

あなたは長い螺旋階段を降りています
長く長く階段の先は闇に沈んでいます
一段一段ひたすら降りていってください

…さあ、あなたはどんな気持ちですか?

「…怖い、暗いし、疲れてきたわ」

そのまま休まず降り続けていると
螺旋階段の壁に
いろいろな風景が映りだしました
さてそれはどんな風景

「そうね…小さい頃のときのものが多いわ」

具体的に。

「七五三のときの着物を着た姿。
 中学校の入学式。
 高校の文化祭。
 大学の卒業論文のとき。
 初出勤のとき…」

彼女の話はとめどなく続く

それがつい三日前のことになったとき

ストップ!
あと20段で螺旋階段が終わります

「え…?もう終わるの?」

ええ、怖くて、暗くて、疲れる
階段はもう終わりますよ
良かったですね、あなたはほっとします

「え、ええ…。
 そうね、何だかゆっくり眠れる気がするわ」

一段一段降りていってください
さあ、あと10段
9、8、7、6、5、4、3、2、1…

彼女は大きく深呼吸をして、そして静かになった

口元に手のひらを近づける
呼吸は感じない
首元に指をあてても
脈を感じない

螺旋階段は人生の象徴
朝昼晩、春夏秋冬
繰り返してるだけに見えてもそれは違う

壁に映ったのは走馬灯の代わり

眠るように旅立てて良かったね
これで永遠におやすみ
posted by 華涼紗乃 at 20:30| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"主役"

あんまり慣れていないのだ
自分のこの状況に

女の子っぽい洋服着て
アクセサリーとかつけて
軽くメイクとかして
今日は手作りお菓子まで用意してしまった

好きだと言われて
舞い上がって
騙されてるんじゃないかとかも思いながら
何だかびくびくおどおどして

普通、好きだって言ったほうが
緊張するもんなのに
相手はいつも余裕っぽくて
何度か一緒に出かけたりしたが
まだ慣れない

でも一緒にいると心地いい
努力した分必ず褒めてくれる
ちゃんとエスコートしてくれてる
…大事にされてると感じる

まるで恋愛ドラマの主役のようだ
気恥ずかしいけどいい感じだ
弟がうらやましがって
ギリギリしてるのもいい気味だ

…慣れないけど頑張ろうと思う
た、体験できることはしておかないとな
posted by 華涼紗乃 at 20:29| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"ホットケーキ"

…美味しいよ?

姉ちゃんが作ったマフィンを
一口ほおばって言った

心配そうな姉ちゃんの顔が
みるみる得意満面になる

…男は簡単なものだな!
あはは!こんなの簡単に出来るんだぞ!
魔法の粉があるのだ!

…何その、怪しげなもの?

ホットケーキミックスだ!
これがあれば
クッキー、スコーン、マフィン、カップケーキ何でも作れるんだぞ!
簡単にだ!
女子の手作りお菓子に感動する男などすぐに騙せるわ!
あははは!

…あのね、姉ちゃん
そりゃ本格的なもの作れる人はすごいけど
自分の実力に見合って
しかも美味しいもの作ろうと思って
必死で調べて練習してこれ作ったんだよね?
彼氏の喜ぶ顔見たくて頑張ったんだよね?
たとえ魔法の粉を使ってたって
それだけで男は十分めちゃめちゃ嬉しいよ?

そういうと姉ちゃんは
今まで見たこともないくらい
真っ赤な顔をしてプルプル震えてた

お、弟のクセに!

え?

弟のクセに〜!!
姉ちゃんは叫びながら自分の部屋に走っていった

やれやれ、なんて可愛い姉ちゃんだろうね
彼氏うらやましいっていうか
憎いというか
いっそ殺してやりたいっていうか…

マフィン全部食ってやろうかな
posted by 華涼紗乃 at 20:28| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『まったく』

 OKです、ありがとうございました、それでは良い一日を! の声に送られて、ボク達はようやくゲートをくぐる。
 予定よりも若干遅くなってしまったけれど、計画に致命的な狂いが生じるほどではない。連休の中日、最も来場者数が多くなるだろう日を実行日に選んだ時点で、時間にはそれなりのゆとりを持たせて行程を組んである。

「ねえねえ、せっかくだからさ、一番人気のコースターぐらいは一回乗ってからにしようよ。こんなチャンスなかなかないんだしさ、ちょっと楽しむぐらい大目に見てくれるって」
「あそこにあるインフォメーションボードを見てみろよ、おマエが言ってるそれは200分待ちって表示されてるぞ。いくら今日はタイトなスケジュールじゃないからって3時間以上も遊んでられるワケないだろ。まったく、その能天気な性格はいつになったら改められるんだ?」
「ちぇー、つまんないのー。だってさ、ココッてこれからしばらくエイギョーテイシにしちゃうんでしょ? だったらその前に乗ってみたかったのに。でも確かに、200分待ちなんかしてたらいくらなんでも怒られちゃうよね。しょーがないか、また別のトコ行くチャンスが出来たらにしよっと」
「別のテーマパークに行くことになったとしてもボク達には呑気にジェットコースターに乗る機会なんか永遠に巡って来ないよ。さあ、さっさと仕事にかかろう」

 カバンの中から、さっきしまったばかりのペットボトルを取り出す。
 ボトルの半分程入っている、半透明の白に濁った液体がちゃぽんと揺れる。
 それから、パークの案内図を上着のポケットから出して広げる。
 入ってすぐのところで配布されている新しいものではなく、既に使い古されて傷みが目立つようになっているもの。ボク達の二日前にここに来た仲間から引き継いだマップだ。

「設置ポイントは25箇所。この混雑だ、テンポ良く回れても結構時間を食うよ。遊んでる暇はない」

 3種類の薬品を混ぜ合わせ一定の時間をおくことで、有毒なガスを生じさせることが出来る。

 二日前−空港で騒ぎが起こってこのパークの警備が強化されるよりも前−ボク達の仲間の一人がここに『ポット』を仕掛けに来た。まだ所持品チェックが行われていなかった頃−ハロウィンの時期、来場者による仮装イベントが実施されていて、大きな荷物を簡単に園内に持ち込むことが出来た頃。
 ごく小さな金属製の容器と、1種類の薬品。それをパーク内のいたるところに設置した。
 そして今日、ボク達の任務は、既にあるその容器に残り2種類の薬品を注ぎ込むこと。

 液体の持ち込みまでチェックされるほどに警備体制が強化されたのは想定外の出来事だったけれど、係員の目の前でひと口飲んで見せさえすればそのまま持って入れると言うのなら問題はない。
 人間であれば口に含むことなど出来ないような劇薬だけれど、ヒトではないこの身にとってはたやすいことだ。毒物の摂取で生命を落とすこともないし、妙な味のものを口に入れたからと言ってそれを吐き出してしまうようなこともない。
 持ち込んだ液体を係員に飲ませなければならないというのであればまた別の方法を考える必要があっただろうが。

「ボクは全部アタマに入ってるから、マップは持って行っていい。ボクは時計回りにポイントを巡るから、おマエは反時計回り。打ち合わせた通りだ。くれぐれも、途中でパレードとかショーとかキャラクターのグリーティングとかに気をとられるんじゃないぞ」
「シンヨーないなぁ、わかってるって! んー、でも、せめてあの浮かれたデザインのカチューシャぐらいは買って着けててもいいよね?」
「いいワケないだろ? って言うかそう訊いていいって言うとおマエは本当に思ってるのか?」
「だよね。はぁい、ちゃんとおシゴトしまーす」
posted by 樋川春樹 at 01:41| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『過敏』

 チケットブースを通り過ぎてから入場までにやたらと時間がかかったのは、エントランスゲートの前で所持品チェックが行われていたからだった。
 魔法と冒険の国、みたいなメルヘンなフレーズに惹かれてやって来たお客達を束の間であっても現実に引き戻してしまうような、物々しい光景。
 もちろん、チェックに当たっている係員は必要以上に威圧的にならないよう細心の注意を払ったファンタジーな制服姿、いかにも爽やかな笑顔を満面に絶やさず浮かべて来場者に余計なプレッシャーを与えないよう万全の心配りがなされていたけれども。

「えぇー、カバンの中を見せるだけじゃなくて、ペットボトルのジュースは飲んで見せなきゃいけないの? それってちょっとゲストを疑り過ぎなんじゃないの?」

 同行者がわざと大きな声で係員に不平をぶつけている。対応している係員は誠に申し訳ございませんみたいな表情でしきりと頭を下げているけれど、だからと言ってチェックの手を緩めてくれる心づもりはなさそうだ。同行者がカバンに入れて持ち込んだ炭酸飲料のペットボトルを白いクロスで覆われた長机の上に置いて、ひと口飲んでからカバンにしまうように促している。
 ボクのカバンの中からもスポーツ飲料のボトルが取り出されて、同じ机の上に載せられていた。

「仕方ないだろ、最近はどこも色々と物騒なんだから。過敏になって当然だ。こないだ空港でも危険物持ち込み未遂の騒ぎがあったし、こういうチェックが厳しくなってるのはこの人達のせいじゃない。くだらない文句言ってないで早く飲みなよ」

 中身が半分入ったペットボトルを取り上げて、当たり前の動作でキャップを外してあおってみせる。
 同行者も、そーだよね、ごめんね、と係員ににっこり笑いかけてちょっと頭を下げてから、ボクと同じようにする。
posted by 樋川春樹 at 01:39| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月21日

【指令】第4週:樋川→華涼

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ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『ホットケーキ』
『主役』
『らせん階段』


・期限は2012年11月28日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月26日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 樋川春樹 at 23:08| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『コンディション』

 左の眼が。
 見えにくい。

 少しばかりダメージを喰らい過ぎてしまったのだろうか。
 そう言えばいつもよりも血を流してしまっている気がする。
 早くカタをつけてしまいたくて、ほんの少しだけ焦っていたかもしれない。
 かわせるものをかわさず、防げるものを防がなかった。

 良くない傾向だ。
 とても良くない傾向だ。

 自分達はいつだって最良のコンディションでいなくてはならない。
 いついかなるときでも全力で『マスター』の力となれるように。
 自分自身を最上最高の状態に保っていなくてはならない。

 こんなところでこんなときに、こんなくだらない傷を負ったりしていてはいけないのだ。

 傷口はすぐに修復されるし、失った血液はすぐに体内で生成されて補充される。
 視覚の不調も数分以内には回復するだろう。
 瓦礫に腰をおろしてじっとしていればわずかでも治りが早くなるだろうか。
 見渡す範囲内、自分の他に動くものは何もない。
 かつて動いていたもの達は自分が全て叩き壊してしまったから。

 左の眼が元に戻ったら、水が使えるところまで移動して、血みどろになっているに違いない顔と手を洗おう。
 どこかで新しい衣類は手に入るだろうか。出来れば鏡に代わるものもあればいい。
 帰る前にちゃんと身なりを整えたい。
 傷ついたまま、乾いた血をこびりつかせたままで戻ると、『マスター』を動揺させてしまうから。
posted by 樋川春樹 at 23:05| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『やれやれ』

 ケンカするほど仲が良い、とはよく言う、けれど。
 やっぱりそれにも限度があって、こうも四六時中ケンカばっかりしているのは、ただ単に本当に仲が悪いだけなのではないだろうか、と思いたくもなる。

 ふたりはよく似た性格をしていると言われる。
 見分けがつかないぐらいにそっくりだと、彼らのことをよく知らない他者から言われることもある。
 出会ったはじめの頃は自分もそう思っていた。
 一緒に長い時間を過ごして来た今では、当たり前だけれど彼らが全然違う人格の持ち主であると、ちゃんとわかるようになった。

 ひとりは涙もろいけれど芯が強くて。
 ひとりはわがままだけれどいつも怯えている。

 人間ではない彼らに何故性格の違いがあるのか−何故彼らが人間のように異なる性格を持つのか−いつかざっとだけれど説明されたことがある。
 「多様性は可能性」なのだと。
 まったく同じものをプログラムしてまったく同じ反応を返すようにしてしまうと、不測の事態に対処しきれない。最悪、なす術なく全滅してしまう危険すらある。
 異なる思考は対立や困惑を生むけれど、そのことが違ったアプローチや互いをフォローする働きを生んで思わぬピンチにも対処出来る確率が飛躍的に高まる。
 自分達が様々な『性格』を持つのは出来るだけ忠実に人間を模しているからでもあるけれど、と彼は笑って付け足した。

 ケンカするほど仲が良い、きっとあんな風に、と向かってケンカ出来る相手がいることは、幸せなのだろう。当人達がおそらくはそう思っていないとしても、自分の考えをぶつけあえる相手がいるというのは良いことだ。たとえそのきっかけが子どもじみたつまらないことであったとしても、口論に留まらず取っ組み合いを始めてしまったとしても、それを眺める自分の口から「やれやれ」という台詞の代わりに思わずため息が漏れたとしても───きっと、それはとても良いことなのだ。
posted by 樋川春樹 at 23:05| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『美白』

 朝目が覚めたとき、窓の外は白銀の世界だった。
 部屋の中は戸外と変わらないんじゃないかと思えるぐらいに冷え切ってしまっていて、温もった布団の中から出るのには多大な意志の力を必要とした。

 それからほんの数時間後。
 昼過ぎの今は、灼熱の太陽の下にいる。
 目玉焼きどころかステーキが焼けそうなくらいに熱されたアスファルトの上。
 日陰に逃げ込むことさえままならない雑踏の中を、意識を朦朧とさせながら人の波にただ流されるようにして、とにかく歩き続けている。

 珍しくも異常でもない、いつものことだ。
 自分達は常に様々な場所、様々な時間を移動し続けている。
 ひとつところに留まるときもあるけれど、それもそんなに長い間のことではない。

 日に幾度もスコールが降るような南国の街から、分厚い毛皮で出来た服をまとって雪と氷で出来た家に住まう人々の暮らす北国の集落へ。
 あらゆる業種の店が集う巨大なショッピングモールを朝から晩まで歩き回る日もあれば、数十キロ四方に他の人間が存在しないようなジャングルのど真ん中で野宿を強いられる日もある。

 毎日環境が大幅に変わるこの暮らしは、普通の人間にとっては強いストレスになったり、するのだろうか。
 こういう生活が日常になってしまった身には、いわゆる『普通』がどうだったのか、もうよく思い出せない。
 普通に生きて普通に暮らし、普通に老いて普通に死んでゆく、普通の人々がこの状況をどう感じるのか。
 他者の意見を尋ねたいところだけれど、隣りで「こんなに容赦ない直射日光の下にいつまでも立ってたんじゃキミのせっかくの美白が損なわれてしまう」という方向で自分のことを心配している同行者に問うてみても、望むような答えは得られないだろう。

 彼はひとではないのだから。

 そうして、自分もゆっくりとひとではなくなりつつあるのだ。
posted by 樋川春樹 at 23:04| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【指令】第4週:華涼→樋川

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ごきげんよう、樋川嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『過敏』
『まったく』
『リメイク』

・期限は2012年11月28日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月26日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


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posted by 華涼紗乃 at 18:19| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"先約"

私は自分の意思でここにいる

ちゃんと選ばせてくれた
ここに遺るか、先に逝くか

あなたには見えないし
聞こえない、触れ合うことも出来ない
だけど私はあなたのそばで
あなたを感じていたかったから

あなたは私を喪って
すごく悲しんでくれた
すごく泣いてくれた
日常になかなか戻れなくて
みんなに心配かけてたね

助けてあげられなくて
すごく悔しくてすごく辛かった
それでもそばにいるのが嬉しかったんだ

やがてあなたは少しずつ前に向いた
仏壇も綺麗にしてくれて
お墓参りもよくしてくれるけれど
私の存在はあなたの中で
もう生々しくはなくなり始めた
そこでもういいかって思った

二人で戯れにした約束だけど
それを今かなえようと思う

「未練を残さずきっぱり逝く」

私の存在は
あなたに影響は与えないけど
いつまでもそばにいるのは
やっぱり良くない気がする

向こうで待ってる
また逢おうね、絶対だよ
幸せになってね

さようなら




…ああ、やっと言えたよ
posted by 華涼紗乃 at 18:13| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"光源"

スポットライトが向けられた

白く強く
周りの闇も存在自体を
あっという間に消される

ここはもう現実ではない
ここはもう日常ではない

一歩踏み込んでしまったら
もう私は別人で
違う時間を歩み始める

あの光の強さには
もう慣れたはずだったのに
リアルに引き返せない
その緊迫感は相変わらず身体の芯を震わせる

白く強く
目も潰されかねない
あの光を
その光の源を

あえてこちらから睨み付ける

きびすを返したらもう振り向かない

背筋を伸ばして
大またで
足音を響かせて

さあ、その世界の中央へ!
posted by 華涼紗乃 at 18:12| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"廊下"

校舎中がオレンジ色の光で満たされる
影は長く光は柔らかく
綺麗な夕焼け

あなたの顔も半分が闇に沈む
「行かないで」
連れ戻すように
引き寄せて口づける

誰もいない教室
誰もいない校庭
休日の学校に忍び込んだ

いつも一緒にいるココで
他の何にも邪魔されずに
あなたと二人きりになりたかったの

そして思い切り
触れ合いたかったの

あなたは
ふんわりと笑みを浮かべて
はだけた首元にもう一度唇を寄せた

自然とのけぞった瞬間に
身体ががくんとこわばった

廊下に走った黒い影
足音はしなかった
気配さえもなかったけれど

驚きと怖さとで震える私を
あなたは強く抱きしめた

気のせい、そう気のせい

死角が多い廊下は
死角の少ない教室を見張るには最適
影の口元は歪んだ笑いを浮かべていた
posted by 華涼紗乃 at 18:11| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月14日

【指令】第3週:樋川→華涼

++++


ごきげんよう、華涼嬢

さて、今回の任務の内容を伝える。
以下の三つのタイトルについて文章作品を完成させて欲しい。

『廊下』
『光源』
『先約』

・期限は2012年11月21日23時59分までとする。
・任務完了後、「@utanarahi」まで必ず報告をすること。

なお、次回の指令は2012年11月19日0時より、期限までに発表する。

では、任務の成功を心より祈る。


++++
posted by 樋川春樹 at 18:40| Comment(0) | 指令書。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『トランシーバー』

「スマホって便利だよね。デフォルトで入ってる電話の機能以外にも、通話用のアプリがたくさんあるから、それを入れれば電話しなくても会話が出来るんだよ。無料通話とか」
「無料なのは確かに便利だけど、きみ達が使ってるのって通話用って言うよりはスマホをトランシーバーにするアプリだよね? わざわざそういうのにしてるのは、一対多で音声を送れるのを評価してるとかそういう関係?」
「まあそれも確かにあるけど、主な理由は別にある。トランシーバーは同時に双方向には音声を送れない。一人が話し終わって回線を開けるまで、聞いてる側は聞いてることしか出来ない。そこが重要なんだ」
「どういう風に重要なの?」
「一人が完全に話し終わるまでは待つことしか出来ない……つまり、他人の発言に割り込んだり出来ないから、収拾のつかない口論になりにくいんだよ。相手の台詞にカッとなってもちょっとだけ間を置けるって言うか」
「なるほど。きみのところはただでさえ口喧嘩になりやすいメンツだもんねえ」
「ケンカになりやすい代わりに忘れるのもすごく早いから、御しやすいと言えば御しやすいんだけどね」
posted by 樋川春樹 at 18:37| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『はんなり』

「さっきのおばあさん、なんだかすごく褒めていたよ」

 声をかけると、すこし先を歩いていた『自分と同じ顔』が振り向いた。

「『はんなりしたええおなごはんどすなぁ』って」

 立ち止まったふたごの姉が、無表情ながらも怪訝そうに首を傾げる。
 たっぷりと腰まで伸びた艶やかな黒髪が揺れる。

「意味がよくわからない」
「おれもよくわかんないけど、でもなんだか嬉しそうに笑ってたから、きっと褒めてたんだよ」

 白い頬に細い指を触れさせて、姉はほんのわずかに考え込む素振りを見せる。
 それも十秒には届かない数秒の間のこと。

「褒められるようなことはしなかったと思う」
「おれもそう思う。でも、褒められたんだからいいじゃないか」

 こちらの言葉を否定も肯定もせずに、姉はまた進行方向に向き直りすたすたと歩き出した。

 つくりものめいて白くきめの細かい肌に、墨を流したような濃い黒髪。
 深い夜の静けさをひとのかたちにしたような姉の容姿と立ち居振る舞いを、あのおばあさんは素直な気持ちで賞賛してくれたのだと思う。
 生まれたときからずっとかたわらにいる『もうひとりの自分』のようなふたごの姉を褒められたのは、おれにとっても嬉しいことだ。
 他の人からプラスの感情を向けてもらえるのは、ありがたいことだと思う。

「ここはいいひとが多いよね。ちょっとわからない言い回しも多いけど、みんなおれ達に親切にしてくれる。それに、景色も素敵だね。良い雰囲気の古い建物がちゃんとたくさん残ってるし、自然も多い。いい場所だよね。来て良かった」

 歩きながら話し続けるおれを、姉はいちいち振り向いて見たりはしないけれど、それはいつものこと。
 さっき足を止めてこっちを向いたのは、自分が褒められていたということにびっくりしたからだ。
 無表情で口数の少ない姉だけれど、おれにはその反応の意味はちゃんとわかる。
 ずっと一緒にいるのだから。

「それにしても、『はんなり』ってどういう意味なのかなぁ。辞書で調べてみようか。今」
「必要ない」
「自分がどんな風に見られたのか、興味ないの?」
「興味ない。それ以前に、社交辞令」
「そうかなぁ。確かに、ここのひと達って、本心を隠す傾向があるみたいだけどさ」

 他愛ないことを喋りながら、入り組んだ路地を何本も通り抜けてゆく。 
posted by 樋川春樹 at 17:58| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『錯視』

「たとえばこれが世間的に最も有名な例」

 ちびた白墨を手に取ると、彼は古びた黒板の隅の方に迷いのない手つきで直線を走らせる。

「端に矢印に似たかたちを描くと、同じ長さの2本の直線が長く見えたり短く見えたりするもの」

 あるいは、と付け足して、彼は別の隅に今度は円を並べて描く。

「円を囲む円の大きさを変えると、片方の円は大きく、片方の円は小さく見える」

 淡々とした口調で説明しながら、彼はそんな調子で大きな黒板いっぱいを錯視の例となる図形で埋め尽くしてゆく。
 直線も正円もフリーハンドで、複雑な幾何学模様も寸瞬の惑いもなく。

 まっすぐな線が折れ曲がって見えるもの。
 本来は存在しない図形が浮き上がって見えるもの。
 つながっているはずの線がずれて見えるもの。
 同じ角度のものが違って見えるもの。

 ちょっと目と脳がおかしくなってしまいそうな図形で黒板が埋まり、チョークが完全に使えない短さまですり減ってしまってようやく、彼はこちらへと向き直る。

「つまりこれほどまでに、人間の目は騙されやすい。脳が処理速度を上げるために自動で補正をかけるせいとも言われているけれど、大半の錯視は原因が判明していない。生身の視覚や知覚はかなり信頼度の低いものなんだ。でも、ボクらは違う」

 そこでようやく、彼は本題に入る。

「ボクらは人間を模して人間と同じようにつくられているけれど、本質的には人間ではなくそもそも生き物ですらない。ボクらの目はここにあるような図形の錯覚にはまったく惑わされない。ボクらが人間の姿をしているのは人間の不完全な能力をコピーするためじゃなく、『マスター』、キミと行動を共にしやすくするため、それがキミの身を守るのに都合が良い形状だから。つまりボクらは、このかたちでなければならない存在というものでもない。それをキミが望むなら、そしてボクらがキミにとって利益になると判断出来たなら、ボクらはどんな姿にでもなるし、そのために今の容姿に執着したりはしない。ボクらはただキミのためだけに存在するまやかしの生命。ボクらの存在意義はただひとつ、『マスター』、キミの役に立つことだけだ」

 淀みのない口調で流れる理知的な声を聞きながら、白墨で描かれた不可思議な図形達を眺めている。
 単体ならばどうということのない図形に、ほんのわずか描き足すだけでまったく違った意味を持たせる、錯視という構造。
 現実世界では誰からも必要とされず愛されもしなかった私が、彼ら『狩人』を得ることで『マスター』という意味のある存在となるように。
 それは、本当は何もないその場所に何かの間違いで浮かび上がる───きっとただの錯覚でしかないのだ。
posted by 樋川春樹 at 17:21| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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