2011年07月03日

年代物

長らく生きていると、余計なものを背負うものだよ。

そう言って、グラスを傾けるあの人。

空になったグラスに滔々と注がれるのは、私より長い時を経た琥珀色の液体。

時間をかけて熟成された薫りは、艶やかに胸をくすぐる。

目を細めてゆっくりとその酒を味わう
あの人の仕草が、たまらなく格好いい。

そんな風に俗っぽい感想を抱いてしまう自分は、やはりまだまだ未熟なのだろう。

あの人の横顔を眺めながら、グラスを煽る私。

余計なもの、と表現された様々な荷物の中に、果たして私も含まれているのだろうか。

できれば、必要なものであれば嬉しいけど。

負担になりたくはない。
しがらみになりたくはない。

想われることが、時に重荷になり、苦しみとなることを知っているから。

だけど、止められない。
ぶつけてしまう。求めてしまう。

それは、私の未熟ゆえ。

あの人に少しでも追い付きたい。
だけどそれは永遠に叶わない。

急なピッチでグラスを空ける私にふと視線を向け、その手をポンと、私の頭にのせる。

無理しないでいいからな。

そのまま、左右に数回動かして。

子供扱いしないでください、と言いたかったのに、言葉にならなかったのは

飲みなれない高いお酒に酔ったせいではなくて、

あの人が、私の唇を塞いだせい、だった。



posted by 葉瀬尋 at 22:58| Comment(0) | ひろ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

あなたが熱くなるのが

瞬間湯沸し器のように

あまりにも急だったから

猫舌の私は

くちをつけられないの

もう少しゆっくりして、ね?

疑ってるわけじゃないから

あと少しだけ待って

あなたの舌で

やけどするのが怖いから


posted by 葉瀬尋 at 21:19| Comment(0) | ひろ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

図書館

静謐な空間が好きだ。

完全に無音というわけではないけれど、なるべく音を立てないようにしましょう、と、その場にいる皆が示しあわせてひっそりと過ごしている。
人々の意思で守られた、独特の人工的な静けさ。

私はその、人々の気持ちが好きだ。

その場にいる人たちは、それぞれの人生を歩いている。
背負っているものも違えば、何を一番の宝物にしているかも違う。

全員が別々の個性であるにもかかわらず、この場所では全員がひとつの約束を共有する。

その不思議。

夏の暑い時期に、快適な温度に保たれた穏やかなその場所で、ゆっくりと頁をめくりながら…

あの人と自分、あの人と誰か、あの人と共に生きる人。


ここにある書物をどれだけ紐解いても、私の抱えている問題を解決する方法は記されていない。

私の歩く物語の終わりを知ることもできない。

私は私の方法で、物語を進めていくしかないのだと…

そこでふと、鞄から伝わる僅かな震えで思考が中断される。

無意識に思いがあの人へと向かっている自分を認識して、苦笑。

いつになればこの悪い癖をなくすことができるだろう?

二つ折りの機械を開いて、画面に並ぶ、そっけない、だけど私の胸を騒がせる文字を確認して。

ほぼ眺めていただけの本を棚に戻し、静かな空間をあとにする。

自分以外の物語をなぞることは、わずかな安らぎをもたらすけれど。
これから向かう嵐の中が、やっぱり私の生きる場所なのだ。

また次にこの場所を訪れるときにも、私はきっと、この静けさに救われるだろう。

ここに来れば、まわりに同化していられる。
みんなの約束を守る一員でいられる。

だから最後まで、背を伸ばしていよう。

せめて凛と、前を向いて

あの人とまっすぐ向き合おう。


posted by 葉瀬尋 at 21:18| Comment(0) | ひろ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

∽年代物∽

その白壁の蔵には
たくさんの古いものが眠っている

もう随分昔に
使われなくなって
忘れ去られたようなものたち

昼間に入っても
そこは薄暗く
まるでがらくたよろしくのような
そんな様子なのだが

だけど私は知っている
ここが夜になると
とても賑やかになることを

人が寝静まった頃
この蔵は起きだし
動き出すのだ

古くなれば古くなるほど
物には付喪神が宿るという

まるで物たちに命が宿ったかのように
毎晩毎晩
歌い踊ってる
それが本当に楽しそうで
私はいつもこっそりそれを覗いてから
眠りに付く

まだまだ
この世には
計り知れない世界が広がっているという証

この蔵を
たとえ使わない物たちばかりであっても
ずっと大切に守っていきたい
posted by 月姫瑠璃愛 at 14:21| Comment(0) | るり | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"年代物"

大事なものが壊れてやっと目が覚めた
私の行く末を心配しながら逝った父の形見
年代物の、銀色の懐中時計
アスファルトに叩きつけられて
粉々に、粉々になってしまった

自分の責任は自分でとるように
自分の選択は慎重にするように
父の厳しい声が頭の中で聞こえた

そう教えられたのに
私はまた感情だけで安易に突っ走ろうとしている

でもね、でもね
私は私の人生と尊厳をかけて
絶対に許すことができないんだよ
絶対に絶対に許すことができないんだ

壊れた懐中時計は破片まで残らず集めて
袋に入れて首から提げた
場所と道具はきちんと用意した

これから相応の報いを受けてもらう
好きなものを着て
好きなものを食べ
好きなところに行ける生活は

この瞬間に終わる
posted by 華涼紗乃 at 11:31| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"熱"

心の奥底にはきっと導火線付の爆弾がある
爆弾はひとつだけど
導火線は無数に延びていて
太さも長さもまちまちで
小さなことで火がついてジリジリと燃えはじめるが
たいていは妥協や忘却によって消え去る

だけど
消火の機構がきかなくなってしまったら
火種が弱まっても油を注がれてしまったら
一気に爆発する
ごうごうと
ぼうぼうと
燃え続ける

どろどろと心を溶かしながら
ばしばしと心を爆ぜさせながら

熱はエネルギーとなって体や頭を動かすけど
暴走してるだけだから
全部周りを巻き込んで
火をばら撒きながら
燃え尽きて
終わってしまう
無残な焼け跡だけしか残らない

他人のも自分のも侮らないほうが良い
一度心が、爆弾が、破裂してしまえば
もう誰にも止められないのだから
posted by 華涼紗乃 at 11:29| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"図書館"

運命だったのだろう

図書館で
同じ本を手に取ろうとしたなんて
一昔前の少女マンガ的な出会いだったのだから

読書が趣味な私とあなたは
本棚で上手く四角になって
校庭が良く見える窓際で
ささやくように話した
くすくすとこっそり笑ったりして

でも好きとはお互い伝えなかった
この関係が何より大事だったから
これ以上もこれ以下も望まなかった

やがて進路が別々になり
おのおのが大人となり、子をなして、幸せに暮らした
風のうわさで聞こえていたお互いの様子も
徐々に聞こえなくなりほとんど忘れたころ

図書館で
孫に読んでやろうと
一冊の絵本をとろうとしたら
横から伸びてきた手

はっと顔を合わせると
随分渋くなっちゃったあなたがいた
それは私もお互い様だけど
お互いにすぐに気づいて吹き出してしまった

きっと
私とあなたの運命は
この図書館のどの本よりも奇跡的な話に違いない

posted by 華涼紗乃 at 11:28| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『年代物』

 『年代物のコンピュータ』になんて、はたして価値はあるのだろうか。
 いささか疑問ではあるけれど……。
 何も無いよりは、少しだけマシなのかな。
 でももしかしたら、このコンピュータはボクよりスペックが低いかもしれないよね。
 ボク達は脳にチップを埋め込んでコンピュータがない状況でもある程度優れた情報処理能力を発揮出来るように人体を調整出来るようになった時代を生きている。
 生きてるか死んでるか半信半疑で電源を入れてみたら、気の毒なくらいおんぼろのパソコンは意外とすんなり息を吹き返した。
 モニタにややぼやけた画面が表示される。システム情報を見るまでもなく、このコンピュータに大したことは出来ない。
 いいさ、ほんの少しだけ役に立ってくれればいい。多くは望まない。望める状況でもない。わかってる。
 うっすらと埃の積もったキーを叩いて、指示を打ち込んでゆく。
 おんぼろのパソコンは生き物みたいな緩慢さで一つ一つコマンドを実行してゆく。
 こっちがいくらじれったいと思っていても、機械はお構い無しだ。
 早くしようと努力することもないし、逆にそれは無理だと開き直る素振りもない。当たり前のことだけれど。
 とにかく、いつ電源自体が落ちてしまうかわからない。電気が使えなくなればそれこそおしまいだ。焦る気持ちを懸命に抑えて、ただこいつがフリーズしてしまわないことを祈って。
 いつの間にかこんなポンコツに運命を託す気持ちになっている自分が、少々情けなく思える。
 でも仕方がない。この身が置かれている状況は、ろくな選択肢を与えてはくれないのだから。
 この年代物が作られてから、一体何年が経過しているのだろう。
 どんな人間がこいつの持ち主だったのかは知らないけれど。
 かつてこのパソコンを使っていた奴は、きっと想像もしなかっただろうな。
 何年も経ってから、特別なところなんかないただの普通のパソコンが、
 世界を滅ぼすために利用される、なんて。
posted by 樋川春樹 at 01:26| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『熱』

 忘れないよ。
 絶対に。
 生きている限り。
 この身が朽ち果てるまで。

 あきらめることは簡単だった。
 投げ出すことだってたやすいものだ。
 終わりにしようと思えばいつでも終わりに出来る。
 もうやめたと座り込んでしまえば、そこがどこでもそこでおしまいに出来る。

 それでもずっと歩いて来られたのは。
 胸の奥に強い熱があったから。
 その熱が消えないように冷めないように。
 手を差し伸べ共に歩いてくれた仲間がいたから。

 彼ら彼女らがしてくれたことを、忘れない。
 絶対に、自分が自分である限り、絶対に。
 いま歩いている道は、確かに自分がこの足で歩んでゆくものだけれど、同時に自分ひとりだけの道ではないことを、今ではもうよくわかっているから。
posted by 樋川春樹 at 00:58| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『図書館』

 視界に入る限りの全てが、背の高い本棚で埋め尽くされていた。
 見回しても果てはなく、見上げても果てがない。
 全ての段にぎっしりと詰まった書物はどれも分厚く古く、背表紙には題名が書かれていない。

 気まぐれに一冊選び、抜き出してみる。
 表紙にも何も書かれていないその本は、今にも分解しそうなぐらいに劣化していたけれど、記された文字はいささかも色褪せていない。
 ただし、黄ばみの目立つ紙を黒々と染め上げている細かい活字は、失われてから数千年もの月日が流れ去ったもはや誰にも読めない文字だ。

 伝えるべき内容を伝えられなくなった後もずっと、膨大な数の書物達はそこに残り続ける。
 幾久しく、この先何千年も何万年も、いつか『本を読む』という習慣を持つ生物がこの世界に存在しなくなったとしても、一冊たりとも一頁たりとも欠けぬままに。

 ここばどこでもない場所にある誰が管理しているのかもよくわからない建物で、けれどここが『図書館』だということは不思議と誰もが認識していた。
 誰に説明されずとも、この建物を知る人間は皆ここを『図書館』と呼んで、それぞれが求める資料を圧倒的な冊数の蔵書の中から探し求める。
 数年、ときには十数年、あるいは数十年をかけて。
posted by 樋川春樹 at 00:41| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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