2011年02月27日

『紙袋』

 腕の中で、かさかさと、
 質の悪い紙が音を立てる。

 しっかりと胸に抱きしめているのは、
 ひとりで運ぶには少しばかり重過ぎる紙袋。

 うんしょと抱え直したあたしに気づいて、
 親切そうなおばさんが一緒に持とうかと声をかけてくれたけれど、
 ううん、大丈夫です、ありがとう、
 笑顔で首を振って、
 あたしは一人で歩き出す。

 誰かに手伝ってもらうわけにはいかない、
 だってコレはあたしの仕事、
 大事なあたしの仕事、
 紙袋の中には天国へのカギが入ってるんだもの。



 どこでもいいからヒトのたくさんいる場所で。

 子どもが持つ紙袋の中身を怪しむような奴はいないだろう。

 これを成し遂げればお前は英雄になれる。
 お前の家族も英雄になれる。
 お前は天国に行ける。
 お前の家族も……



 あたしは、何にも、出来ない子だったから。
 他のことで役に立つことが、出来なかったから。

 視線を感じた気がした。
 顔を向けると、背の高い男の人がふいと顔を逸らした気がした。
 一体誰だろう、このあたりでは見たことのない人だ。

 でも、もう、あたしには、関係のないこと。

 紙袋の中身は天国へのカギ。
 あたしが抱きしめているのは、あたしの大事な仕事。
 かさかさと音を立てるそれをぎゅっと抱きしめて。

 あたしは、ねえ、それでも、
 生きてきた中で一番、今日が一番──────
posted by 樋川春樹 at 23:38| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"紙袋"

あたたかいものは大好き

羽根布団に包まったときとか
手袋に手を入れた瞬間とか
入れたての紅茶とか
白い湯気の中お風呂に使ったときとか

焼きたての鯛焼きもいい
とても寒い日のデート
鯛が頭をのぞかせた
白くて小さな紙袋を彼が渡してくれた

私の中身はカスタード
ちゃんと言わなくてもわかってくれてる

並んで二人でかぶりつく
息と湯気が白くなってふわふわする

美味しいね、と笑いあう
そんな人がいることが
一番あたたかくて心地いい

食べ終えてぬくもりが消えた紙袋
くしゃりと丸めて
今度はもっとあたたかい彼の手を取る

さあお家に帰ろう
コタツに入って
美味しいお茶でも飲もうね
posted by 華涼紗乃 at 12:06| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"屋上"

飛んでゆけそうな気がする
地面以外の空間が
真っ青に塗りつぶされたここなら

視界一杯の青は
やがて私を吸い込もうとするだろう
コンクリートの硬く冷たい感触から
足が開放されて
そしてどこまでも高いところに
連れて行かれるのだ

少し強い冷たい風が真正面から吹き付ける
風は私の当たって細胞の隙間を通り抜けて
一緒に淀んだ何かを連れ去っていく

まっさらになったら
何も怖いことなんかない

この世界がそう出来ていれば良いのに
空に吸い込まれ、どこかへ連れ去ってくれたら
風に吹かれ、全部忘れられたら
そう出来ていれば叶う願いも多いはずなのに

空は青く、風は冷たい
所詮ここはそれだけの場所だ

救われるような雰囲気だけまとって
いい気分にさせておいて

実際は何にも変わらない
変わることなんか…何もない
posted by 華涼紗乃 at 12:05| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"裏表"

いびつなトライアングル
危ういバランスで一応三角形
いつひしゃげて崩れるかわからない
そんな関係

頂点A
僕は彼女の夫で、あの子は彼女の親友
ひっくり返せば
僕は裏切り者で、あの子は共犯者
彼女は何も知らない
細心の注意を払って隠し通してきたから
それはあの子も了承済み
絶対に秘匿すべき事柄

頂点B
あたしは彼女の親友で、彼は親友の旦那さま
ひっくり返せば
あたしは裏切り者で、彼の愛人
彼女は何も知らない
こんな関係になってしまっても彼女だけは傷つけたくない
神経質なくらいに気をつけて会ってきた
そこだけは彼の気持ちも同じ
絶対に墓まで持っていくべきこと

『一体誰を愛しているのか?
 一体何を守りたいのか?
 矛盾した心には見ないフリをした』


…頂点C
私は彼の妻で、あの女は私の親友
ひっくり返せば
夫にも親友にも裏切られた惨めな女
あの二人は私が何も知らないと思っている
二人の前に笑ってる私が本物だと確信してる
どんなに気をつけてもわかるもの
秘密は守るより暴くほうが圧倒的に有利
だけどそのいっそ忌々しい位に守る様子には驚いた
この関係を意地でも壊したくないみたい
だから知らないフリは限界まで貫き通した

『でもそろそろ憎悪のダムは決壊する』

三角形はみしみしと音を立てながらひしゃげていく
未来のある選択肢はいくらも残されていない
すべてバッドエンド

…そのときはもうすぐそこに
posted by 華涼紗乃 at 12:05| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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