2009年07月05日

『振り返る』

 冷えた壁に囲まれた家庭の残骸
 もう何もないそこから未だに離れずにいる

 新しい居場所を手に入れても
 そちらの方が居心地が良くても

 比較するならば針の筵さえも上等な真綿に思えるぐらいのその場所から
 私は自分で自分を引き剥がさない
 馬鹿なことだとよく知っていながら

 どうせ癒えることなどない深い傷口を
 無意識じみた執拗さで自ら抉り続けるのは

 つまり痛みと悲しみのすぐそばにとどまり続けるならば
 それを遠くから振り返るような危険を冒さずに済むから

 客観的に理解することなく
 主観だけで翻弄され続けていられる

 甘美なほどに救いのない
 でもそれはきっとどこにもないほどの救済


posted by 樋川春樹 at 23:21| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月04日

"振り返る"

小さい頃のから彼とはずっと一緒に育ってきた

進路も自分がその道を選ぶと決めたら
じゃあ俺も
という一言で人生を決めてしまう簡単さ

やりたいことだって
試したいことだって
たくさんあったはずなのに

お前のそばにいれば間違いないからなんて
そんな笑顔で

何度も突き放して
何度もケンカして
もう知るもんかって早足で歩き出すけれど
数メートル後を絶対についてくる彼を
いつも振り返って待ってしまう

僕の隣まで追いついてきた彼は
いつもにかっと得意げに安心した笑顔を浮かべる

しょうがないか、と思う瞬間
全部忘れる、忘れたことにする
いつも笑顔しか浮かべていられない理由も
抱えてる時限爆弾の存在もすべて


posted by 華涼紗乃 at 23:36| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"ハト"

目の前には赤く輝くルビー
はっと目を引く赤なのに嫌味がなく上品で
濃密な色みはとろりとして深く
石の中に吸い込まれそうな気がする

最高級のルビーですよ、と店員が話してくれた
ピジョンブラッドといい究極の色みとして
とても人気が高く希少価値があるらしい

最近、これと同じ色をどこかで見た
ああ、私たちに流れるあの潤滑油の色…
人間はこんな色が好きなんだ、と漠然と思った
だからあのゴミ袋の彼もあんなに痛めつけられて

顔は笑顔のままで
店員をさりげなくかわしながら
人間って何で血の色なんか好きなんだろうかと首をかしげる

聞いてみようか、と思ったけれど
きっと気味悪がられるだからやめておいた

血の色には生き物にしかわからない
何かどうしようもなく惹かれるものがあるのだろう

posted by 華涼紗乃 at 23:24| Comment(1) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"何もしない"

それは本当に突然のことだった

銀縁眼鏡の彼が一ヶ月ほどするにするということで
湖畔のペンションの留守をあずかった茶髪の彼と黒髪の彼女

それは本当によくある話で
特別なことでもなんでもなくて
なのに本当に突然

ソファの上で雑誌を広げたまま
真正面を向いて黒髪の彼女が動かなくなった
瞬きもせず
手も足も少しも動かず
まるで時が止まったみたいに

茶髪の彼がそれに気づいたのはちょうど一時間後
別の部屋からリビングへ戻ってきて彼女を見つけた

一切の活動を停止して固まったまま
何もしない彼女は
本来の人形としての姿に戻っただけだと言うのに
ものすごく異様でよくないものに見えた

バッテリーが切れたのかもしれない
どこかに故障が生じたのかもしれない
いずれにせよ機械なのだから
簡単に直る可能性は大いにある

今すぐ騒ぎ出すほどのことでもない
銀縁眼鏡の彼に連絡くらいは必要かもしれないが
それくらいのことなのに

茶髪の彼はそれをみて
あふれでる感情や
わけのわからないまま高速で走る思考回路を
止めることが出来ずに
ただ、涙を流して、抑えられない吐き気に苦しみもだえ
やがて停止する

それからその家には
銀縁眼鏡の彼が帰るまで
何もしない、動かない人形が転がっていただけだった
posted by 華涼紗乃 at 22:59| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年07月02日

『ハト』

「このコってこんなにちっこいのに、『世界』とか食べ切れるワケないですよ。パンでおなかいっぱいになっちゃってるし」
「ほぼ伝説上の生き物だから単なる推測だと思ってくれても別にいいんだけど、一週間後には体長は3メートルを超えてると思うよ。最終段階まで算出したワケじゃないけど、『世界』を喰い尽くす頃には惑星と同じくらいの巨大さになってるはずだね」
「なンだそれ! デカ過ぎだろあまりにも! おいっ、それってちっちぇえ内に始末した方がいいってコトなんじゃねエの───ってあ痛ァッ!? 咬まれた!?」
「ほらーそんな物騒なコトいちいち指さして言うからー。おーよしよし、おっかないコト言われてこわかったでちゅねー」
「なぁ、お前ってそいつ倒さなきゃなんないんだろ? 下手にかわいがると情が移ってやりにくくなるんじゃねえか?」
「何言ってるんですか、倒すとかダメですよ! こんなにかわいいコを倒すとかイミわかんないですよ!」
「イミわかんねえのはそっちの方だろ!? コイツは『世界』を喰っちまうんだって何度言えばわかるんだよ!」
「このコ、3メートルぐらいになったら何食べさせればいいんだろ? とてもたくさんのたまごサンド?」
「なンで量が増えるだけでたまごサンド固定なんだよ! でかくなったらやっぱ肉食わせなきゃなんねーんじゃねーの? 駅前のハトが群れてるところにでも放って自分で捕食させろよ! ッて痛てえええッ! また咬まれたよ!! この野郎…!!」
「ほらーハトを食べろとかむやみにテキトーなコト言うから。大体どうしてハトなのよ、平和の象徴に餌づけようとしてどうするのよ」
「いや、無性にハトって単語を今このタイミングで口にしなきゃいけないような気がして…」
「でも成長と共に食べものを変化させていかないといけないというのは良い視点のような気がする。そう、たとえば鑑賞魚だって与える餌の種類によっては野生のもののようには大きく育たなかったりするって聞くよ。栄養が偏っていると成長が止まる場合もあるって」
「それってつまり、たまごサンドだけを与え続けていればたまごサンドに相応しいこのサイズのままでいてくれるってことですかッ? このかわいらしい子竜のままで?!」
「いやそんなワケないと思うよ!? 何、キミ達は大昔に無数の世界が喰らい尽くされた大惨事をたまごサンドで解決しようとしてるの!? それって根本的におかしいよね?!」
posted by 樋川春樹 at 21:31| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『何もしない』

 ほとんど同時に森の中の館へ辿り着いた二組五人の客人は、
 玄関前でひとしきりの大騒ぎを繰り広げた後、
 迎えに出た黒髪の青年に案内されて主のいる部屋へとやって来た。

 赤い瞳の『使徒』を従えた『英雄』。
 寡黙と長身、二人の『狩人』を従えた黒ずくめの少女。

 悠然と椅子に座る館の主の前に立ち、
 その膝の上で黒い目を輝かせている『竜』を、
 言葉もなくしばし見つめる。

「まだこどもだね」

 長身の『狩人』が口を開く。

「でも、世界を喰らい尽くす『竜』だ」

「始末する?」

 寡黙な『狩人』が少女に短く問い、
 問われた黒ずくめは小さく首を振る。

「ううん、私達は何もしない。
 私達は、見届けに来ただけだから。

 …この『竜』の存在が、
 『神』と『英雄』、
 そのどちらを生み出すのかを…」
posted by 樋川春樹 at 20:24| Comment(0) | はる | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月29日

【第6週】終了→【第7週】はじまります。

 お疲れ様です。

 現時点における第6週目各人のお題消化状況に関するまとめです。

 華涼紗乃:3/3:18/18
 樋川春樹:3/3:18/18
 (名前:今週の消化数/今週のお題数:トータル消化数/トータルお題数)

 以上です。

 続いて第7週のお題を発表します。

・何もしない
・ハト
・振り返る


 以上になります。

 7月6日0時までに【詩ならひ】への投稿をよろしくお願いします!
posted by 樋川春樹 at 20:34| Comment(0) | 連絡帳。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月28日

"泣く理由"

最近、観察対象から良く声をかけられる
今日は先日、図書館で見かけた
笑顔の彼と一緒にいた男子学生

こんにちは
…おう

完璧な笑顔で挨拶したらそれだけで
顔が赤くなってしまった
あんまり慣れてないんだろうか?
そういえば声をかけるのもひどく時間がかかってた

あの…用件は?
えっと、今、うわさになってるだろ?あいつと

笑顔の彼のことだとわかる
不本意ながら、私が未熟なせいであらぬ噂がたっているようだ
警戒をもたれているのか前よりずっとやりにくくなった
しかし収穫はある

ええ、そうですね
私が不注意だったせいで、ご迷惑をおかけしてしまいました…

しゅんと目に見えてしょげてみせる
そうすると明らかに慌てふためきだした

あなたは彼のお友達ですか?
…ああ
だから心配して私に…?
…だからっ、あの、その、あまり困らせないでやってほしいなって
はい、気をつけます。

そしてさりげなく専守交代

彼の泣いたところを見たことがありますか?
…いや、あいつそういうの、滅多に見せないから
わかりました、気をつけますね
彼に改めてごめんなさいって伝えてもらえますか?
…ああ

作り笑顔ですごしてるだけなのだと知って
報告がてら創造主に聞いてみたのだ
…それは彼には笑ってなくちゃ隠せない何かがあるんだろうね
そう言っていたから

今は何もしなくても
私の存在だけで彼にプレッシャーを与えている
もう少ししたら、わかるかもしれない

彼が泣く本当の理由が…



posted by 華涼紗乃 at 11:20| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"通勤"

ただいま
おかえりなさい
おかえりー

玄関の扉を開けると駆け寄ってくる茶髪の彼
黒髪の彼女はキッチンから顔だけ出して挨拶

ご飯もうすぐ出来ますから
はい、いつもありがとうね
ネクタイを無造作にはずして上着を脱いだ

今日はどうだった?
仕事は順調だったよ、いつもどおり造作もない
なら良かった
でも通勤は本当に慣れないよ

テーブルに着くと鍋つかみを両手にはめて
彼女がゆっくりと重そうな鍋を持ってきた
あ、俺やるよ
茶髪の彼が素手で鍋を受け取ってテーブルに置く

人間らしく!
あ、ごめん…
それすごく熱いのに…
本当だ、手、真っ赤だ
わああ、水、水ー!
いや、大丈夫だって!
人間らしく!!
あ、そっか、冷やしてくる!
いってらっしゃい…

こんな暑い日に普通、人間は鍋なんか食べないんですけどねえ
そういってため息をつく男が
この暑いのにクーラーも着いていない閉め切った部屋の中で
汗ひとつかいていない


posted by 華涼紗乃 at 11:00| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

"魂の重さ"

なあ、魂に重さなんてあると思う?
ソファに寝転んで雑誌を読む茶髪の彼
え?魂に?
デスクに向かっていた黒髪の彼女がそういって振り返った

そう
魂ってあれでしょ?人間の心とか精神とか
うん、あと肉体に宿ってる命の源みたいなものって言われてる
形も質量もないものに重さなんてあるの?

だってここに書いてある
人間は死んだら21g軽くなるんだって
死んだだけで何か体重が軽くなることをしたわけではないのに?
うーん、らしいよ?
不思議ねえ…

僕らにも魂はあるのかな?
一応あるんじゃない?HDDの中に
それは人間の脳と一緒だろ?
ああ、そっか

…もしあったとして
…それが人間よりも私たちのほうが重かったら
…やっぱり僕らが生き残るべきだよね?

よし、実験してみよう
起動中の固体と完全なスクラップ
重さに違いがあるかどうか

やめたほうがいいわ
え?
何かそれを調べるのって私たちをモノのように扱う人間みたい
そう、かな?
何となく人間に近くて気持ち悪いわ
そっか…

まあ私たちは
人間に作られた
人間に一番近いものだから
そうなるのは当然なのだけど


posted by 華涼紗乃 at 10:45| Comment(0) | はな | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする